健康食品、化粧品、はちみつ・自然食品の山田養蜂場。「ひとりの人の健康」のために大切な自然からの贈り物をお届けいたします。
「リーン、リーン。」
いつもの朝のベルが鳴り出しました。
ここはハチミツタウン。
色々な、ハチ達が仲良く暮らす平和な街です。その街でいつもと変わらぬ朝をむかえたハチ達がいました。
「おい、新米、早く起きろ、また遅刻するぞ。」
怒鳴りつける声が。
「う〜ん。まだ大丈夫ですよ。先輩。」
それにかわって眠そうな若いミツバチの声が。この二匹はこの街の新聞記者なのです。
「ウチの社長は時間にうるさいのだ。急げ、早くしろ。何回遅刻すれば気がすむのだ?」
「えっと、三、四回目でしたっけ?」
「六回目だ。どうでもいいから早く行くぞ。」
二匹はドタバタとアパートを出て、全速力で羽を動かし、会社へ向かいました。
「今日は大通りがすいている。間に合うぞ。」
先輩ミツバチが風に負けないように大声で叫びました。
「そうですね。それなら少しゆっくり行けますね。これじゃぁ、眼が痛くて。」
後ろから、大声で新米ミツバチが言いました。
「バカ者!それに、ゴーグルは社会人にとって必需品ってことを忘れたのか?」
「あぁ、それなら覚えていますよ。確か木曜日の新入社員説明会できいた気がします。」
「まったく、世話がやけるヤツだ……」
二匹が言い合っている内に青い窓ガラスが敷きつまったビルに到着しました。
七時五八分三二秒。どうやら朝の会議に間に合ったようですね。
「ほぉ、今日は遅刻せずに来たな。」
はきはきとした声が言いました。
ミツバチレポートカンパニー社の社長です。
「今日はどんな言い訳が聞けるかと楽しみにしていたのになぁ。」
自慢のヒゲをなでながら、社長は言いました。
「さっそくだ、今回の仕事は人間についてレポートを作ってもらう。それを毎週水曜日の新聞に載せようと思う。これには君の新入社員教育係としての能力もかかっているから、しっかりやってくれ。」
「はい分かりました。」
こうなっては、善は急げ。早速二匹は人間のたくさんいる街に飛び立ちました。
「いいかい新米、レポートという物はこんな風に書くのだ。よくきいとけよ。例えばだな、お、あれを見ろ。人間はああやって犬という動物とキャッチボールをして一緒に楽しむのだ。と言う感じだ。」
先輩ミツバチは念を押しながら説明しました。しかし、新米ミツバチは、こう答えました。
「なるほど。人間は犬を奴隷に使い、自分の落としたボールをとらせているのか」。
「ちがう!何をきいていたのだ。もっとよく観察しろ。これからレポートの極意をみっちり教え込んでやる。ついてこい。」
きびきびと先輩ミツバチは飛んで行きます。
今度は、母親と、小さな子どもの住んでいるアパートが見えます。
「あ!」
新米ミツバチは声をあげました。
なんと、母親が子どもをひっぱたいたのです。
「うーむ、最近の人間はたとえ親子でも思うようにいかなかったらすぐに暴力にいってしまう。なんて、卑劣だ。」
低くうなりながら先輩ミツバチは言いました。しかし、新米ミツバチは感心し、言いました。
「なるほど、ああやって子どもに対し武術を教えているのだな。だから人間は強いのか。」
「まったく、お前は何を見ているのだ!もう少しよく考えろ。こういう場合は、おれ達に置き換えて考えるのだ。いいか、もしおれ達の世界で親子があの状態ならどう思うか?」
「先輩、そんなことありえないですよ。」
「そうだ、ありえない。だが人間は事実、行動を起こしている。つまり、人間が滅びるのも遠くはないと言うことだ。」
「なるほど、流石先輩。」
次に二匹は、たくさんの人が電気屋さんの前のテレビに釘付けにされているのを見つけました。
「なんだろう?」
二匹は人間の群に飲み込まれないように上の方でそのテレビを見ました。
そのテレビは現在、紛争中の国の映像を映していました。
「本当に、なんて人間はみにくいのだ。自分の権力ほしさに同じ人間を傷つけ合うなんて。なぁ?」
やがて先輩ミツバチが新米に問いかけました。
「そうですね。でも我々だってアシナガバチと領地争いをしていますから、結局一緒なんじゃないですか?」
「むむむ。結局は生き物みんな闘う運命なのか……。」
先輩ミツバチはうなだれました。
やがて、日が暮れ家々に点々と明かりがついていきました。
「人間の科学とは便利な物ですね。夜なのに家の中は昼間みたいだ。」
新米ミツバチは感心して言いました。
「そうだな。どうだ、ちょっとだけ、今日最後の観察に行くか?」
進行方向を変え、先輩ミツバチは言いました。
「アイアイサー。」
二匹は白い屋根の一軒家に近づきました。外の街灯で屋根の色もはっきり分かります。先輩ミツバチは気合いを入れて言いました。
「よし、玄関から向かうぞ。」
「え?窓からではないのですか?」
「人間の家は玄関から入る物だ。それが礼儀だ。窓から入っちゃ泥棒じゃないか。」
「はぁ、でも見つかりませんかね?」
「大丈夫だ!先輩に口出しするな。」
「は、はい。」
そう言って二匹は玄関の下の方にある隙間から入っていきました。礼儀好きな先輩ミツバチはちゃんとドアにノックをして入り、見つからないように低飛行で進みました。
「お父さん、テレビばっかり見てないで、たまには息子の勉強でも見てくださいよ。」
食卓の近くから女の人の声がします。
「レンだってもう小学校二年生だろ?一人で勉強できる年頃じゃないか。」
もう一つ、男の人の声が聞こえました。
レンとは息子の名前のようです。
「だけど、お父さん。レンは子どもなのですよ。時にはかまってほしいときだってあるのよ。それに、おばあちゃんのこともあるし……。」
「わかっている。もう今日は仕事で疲れた。」 男の方の声はそう言い、寝室へ行きました。
「まったく。人間全滅の日は本当に遠くないな。人間の親がああじゃ、子どももダメだね。」
先輩ミツバチはあきれて言いました。
「でも、どうして人間の大人はそんなに子どもが嫌いなのですか?」
新米ミツバチが尋ねると先輩ミツバチは得意げに答えました。
「そりゃ。自分のことしか考えてなくて他のことに頭が回らないのだろう。だから、子どもの立場で考えられないのさ。つまり、自分の感覚で子どもと接しているから、うまくいかない。ということだな。」
「さっすが先輩。詳しいですね!」
「フン。だてに三〇年、この仕事続けていたワケじゃないぜ。」
その時ブンブンポケベルが。
「ピピピピピ……。」
「お、いけねぇ。早くかえらなくては。おい、新米、いくぞ。」
「ラジャー。」
二匹は会社の会議室に向かいました。
社長が言いました。
「うむ。ご苦労であった。レポートを出して今日は帰っていいぞ。おつかれさま。」
社長に言われ、二匹は自宅へと向かいました。
「あぁー。今日はあちこち久しぶりに飛び回って疲れたなぁ。」
アパートに帰りゴロゴロしながら先輩ミツバチは言いました。
「そうですねー。明日はずっと一カ所にとどまってアイスクリームでも食べながらやりましょうよ。絶対に社長にはばれませんって。」
うちわで扇ぎながら新米ミツバチは言いました。
「お、それいいな。」
先輩ミツバチは言ったがやはりいつものこと。
「ばかもの!そんなことを言う元気があるなら先輩にぶんぶんビールでも買ってこい!」
「まったく、ハチ使いが荒いなぁ。」
「何か言ったか?」
「いいえ、空耳ではありませんか?」
しぶしぶ、新米ミツバチはコンバチエンスへ向かいました。
夜の街は電気もないのに明るいのです。
なぜなら、人間達の街の光がここまで届いているからです。
新米ミツバチは今日、人間の街に行ったばかりです。昼の街にね。しかし……
やはり、好奇心には勝てなかったみたいです。
「夜の街ってどんな感じなのだろう。」
そう言ってフラフラッとコンバチエンスを通り過ぎ人間の街に向かいました。
そこは、いろいろな光に満ちた新米ミツバチにとって夢のような世界でした。
赤や青、黄色や緑、白などたくさんの色の光がついては消え、ついては消えの繰り返し。
人も大勢、時々、叫び声も聞こえました。
しかし、新米ミツバチは目をこすりながら他のところへ飛んでいきました。きっとまぶしかったのでしょうね。
行った先には大きな病院がありました。
そして一つの窓が開いていました。
新米ミツバチはまたもやフラフラッと窓の中へ入っていきました。
そこには、一人の老婆と枯れた花が入っている花瓶しかない殺風景な病室でした。
しかも、病室のドアは閉まっていて見舞客なんていません。
「なーんだ、こんな物しかないのか。」
眠っている老婆を見つめながら言い放ちました。
「花瓶の花の手入れもしてないのか?ひどいなぁ。お花がかわいそうだ。」
人間のいいかげんさに腹を立てた新米ミツバチは病院を出てハチミツタウンに帰りました。
「あ。いけない。」
先輩ミツバチに頼まれたビールのことをすっかり忘れていたのです。でも、もうアパートの部屋の前。
「よし。売り切れていたってことにしよう。」
「ガチャッ。」
ドアを開け先輩ミツバチを見ると、すでに大いびき。
昼間の件で本当に疲れていたのですね。新米ミツバチはそっと先輩ミツバチに毛布を掛け自分も眠りました。
「リーン。リーン。」
ベルが鳴り、いつもの騒がしい朝がやってきました。
ドタバタしながら二匹は昨日と同じように会社へ向かいました。
「おはよう。最近は八時出席率がいいね。」
社内の廊下で社長と出会いました。
「はい、いつまでも遅刻していられません。」
先輩ミツバチがキリッとして言いました。
「うむ。そう言えば、昨日のレポートなかなか良かったぞ。君の部下はユニークなやつだな。ハハハハハ。そこで、今日も君達に任せるよ。すぐ出発してくれ。」
そう言って社長ミツバチは去っていきました。
「やったぞ、新米。社長からほめの言葉だ。」
うれしそうに飛び上がって先輩ミツバチは言いました。
「やりましたね、これで私も大出世だ!」
同じく新米ミツバチも飛び上がりました。
「そんな簡単にいくワケがないだろ!」
先輩ミツバチが言いました。
そう言って二匹は人間の街に向かいました。
二匹がぶらぶらしていると、突然雨が降ってきました。
「うわぁ。雨だ。」
二匹はあわてて近くの建物の中に避難しました。たかが雨でも、小さなミツバチにとって雨はとても危険な物なのです。
「あれれ?天気予報では一日中晴れマークがついていたのに。」
新米ミツバチがぼやくと。
「あのなぁ。これは夕立といって……。」
先輩ミツバチが説明し始めると……。
「ガチャッ。」
ドアが開く音が聞こえました。
「まずい、おい、隠れるぞ。」
先輩ミツバチが言い、二匹は花瓶の陰に隠れました。
「あれ?ここは……。」
新米ミツバチが言ったこことは、昨晩おとずれた大きな病院のあの部屋でした。部屋には寝ている老婆一人だけだったので今まで気づかなかったのです。 しかし、今は二人の大人と一人の子どもがお見舞いに来ています。
「こんにちは、おばあちゃん。何かかわったことはなかった?」
女の人の声です。
「あぁ、このあいだ窓の外に大きな虹が出てね、それで……。」
「そうですか、その話ならこの前も聞きましたよ。」
女の人が話を流しました。
「そうかい。三人とも体には気をつけるのだよ。戦争中は……。」
「その話は何回も聞いたよ、おふくろ。今日は着替えを持ってきた。じゃぁ、オレは仕事が忙しいから帰るな。レン、お前も帰るか?」 男の人が尋ねました。
「あ、ボクは……庭の花を持ってきたんだ。」
レンと呼ばれる男の子が花を持って言うと、女の人があわてて言いました。
「あ、大変。レン、もう行かなくちゃ、塾に遅れちゃうわ。」
レンの持っていた花を、乱暴に花瓶につっこんだので、一、二本は床に散らばりました。
「あぁあ、ありがとうも言えなかった。私は動けないし花瓶に花はさせないのになぁ。」
さみしそうに、おばあちゃんが言いました。
「ちょっと冷たすぎますよ。このおばあちゃんは昨日もここに一人っきりだったのに。」
新米ミツバチはぷりぷりして言いました。
「昨日?こんなとこに来たかな?まぁ、それはいいとして。人間ってのはそういう動物さ、自分の都合しか考えなくて相手のことなんてこれっぽっちも思っちゃいねぇ。」
先輩ミツバチは腕を組みながら言いました。
「よいしょ。」
新米ミツバチは床に落ちていた花を持ち上げました。
「おい、何やっている。そんなことしたら見つかるぞ、人間は虫が嫌いだからな。」
「大丈夫ですよ。このおばあちゃん今は寝ています。」
そう言って、新米ミツバチは花を花瓶へと運び、いけました。ついでに、枯れていた花も取り除きました。
「このおばあちゃん、動けないから手入れが出来なかったのか。」
新米ミツバチは昨晩の怒りを恥じました。
「おい、雨もやんだし、ここに長居は無用だ。いくぞ。」
先輩に言われ二匹は病院を後にしました。
夕方、昨日と同じように会社にもどり、アパートに帰り眠りました。違う点と言えば今夜は外に出かけなかったことです。