健康食品、化粧品、はちみつ・自然食品の山田養蜂場。「ひとりの人の健康」のために大切な自然からの贈り物をお届けいたします。
ハルばあちゃんはハチミツパンケーキを何枚も焼いた。あったかいお茶も用意した。
パンケーキを見たとたん、サヤは今日がさよならの日だというのを忘れて、すっかりごきげんになっていた。
大事にしていた赤いミニカーをリュウがぼくにくれようとしたけど、クマにはポケットがないからと気がついてあきらめた。
「しょうがねえなあ。ぼくがずっと持っててやらあ。でもさ、このミニカーはいつまでもホタカのもんだからな」
リュウはわざとらんぼうに言った。ぼくはリュウの顔を、今までじゅうで一番ていねいにべろーんとなめてやった。
リュウのパパのトラックで、ぼくたちは山への道をグルグルと上って行った。大きな樹が枝を広げ、日かげを作っている。すずしい風が吹いて、ササの葉っぱがざわざわと鳴っていた。水が流れる音がした。
トラックの荷台で、ぼくは何度も大事なことを思い出しかけた。
だけどこれって、なんなんだろう。
思い出せそうで、思い出せない。
トラックが止まった。
目の前に白くて高い山がそびえていた。
「あの山が穂高だ。ホタカ、おまえの名前と一緒だよ」
リュウのパパが言った。ぼくは輝く白い峰を見あげた。気持ちがうんと深くなる。
まぶしいものが目の奥で光った。
耳がキーンと痛くなる。
胸がギュッと苦しくなった。
「さあ、ここでお昼にしよう。ホタカ、最後のパンケーキだ」
ハルばあちゃんがバスケットを開いた。
「あんたの大好物のハチミツだよ」
でも、そのとき、ぼくの耳も目も鼻も、ハチミツなんかどうでもよくなっていた。
ぼくは思い出したんだ。
ぼくにもお母さんがいた。
あの日、大きな音が鳴り響いた。
目の前が光って、いやな臭いがした。
白い煙。ぼくの足に犬が飛びつく。
お母さんはぐったりとたおれたままだった。長い爪、くいしばった歯、開いたまま遠いところをにらんでいた目。
その目がぼくのほうをむいた。さいごの力をふりしぼって、お母さんが言った。
さよなら、ホタカ。生きなさい、ホタカ!
ぼくは走った。痛い足を引きずって。お母さんをおいたまま。さよならもいわずに。
そして、どんどん走ったんだ……
ぼくは、何もかも思い出した。
ああ、山の匂いだ。ぼくは鼻先をまっすぐ山のほうにむける。ごおーっと風がうなった。
風におされて歩き出したぼくの背中に、突然、サヤの声がはじけた。
「さよならあ、ホタカ」
声は遠くの山にこだました。
「さよならあ、ホタカ」
しまってあったサヤのさよならが、風に乗り山を越えて空にのぼっていった。
「さよならあ、さよならあ」
サヤ……ちゃんと、さよならが言えたんだな……。
山の匂いはどんどん、どんどん強くなって、ぼくはうしろを振りむけない。
白い峰がぐっ、ぐっと近づいてきた。