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ミツバチの童話と絵本のコンクール

おくびょうなタネ

受賞野島 亜悠 様(京都府)

 おくびょうなタネが、土の中に眠っていました。いいえ、眠っていたわけでは、ありません。眠っているふりをしているだけなのです。
 もし、目を覚ましていることが、太陽にわかってしまうと、太陽はきっとこう言うにちがいありません。
「ねぼすけのタネや、もういいかげんに芽をおだし。」
 タネはこのように言われるのは嫌でした。なぜなら、土の外の世界が、とてもこわかったからです。いつまでも、あたたかくて安全な土の中に、じっとしてとじこもっていたかったのです。
 ある日、土の外から、野ウサギとアナグマが話しているのが聞こえてきました。
「いい天気だね。」
「そうだね。あたたかくてウキウキするね。」
タネは土の中で、二匹の話を聞きながら、思いました。
 (ウキウキって何だろう…?)
 またある日、今度はカケスとツバメの声を聞きました。
「空が青いね。」
「そうだね。湖も青いね。ウキウキするね。」
タネは、じっと考えました。
 (ウキウキって何だろう…?)
 それから、また別の日には、トカゲとカエルの声がしてきました。タネは、話を聞こうとけんめいに首をのばしました。
「モモの花が可愛いね。」
「そうだね。もうすぐアンズも咲くよ。ウキウキするね。」
 タネは、なんだかじっとしてはいられない気持ちになりました。
 (ウキウキが、そこらじゅうにあふれているぞ。ウキウキがどんなものか、見てみたいなぁ。)
 タネがそわそわしたものだから、ついうっかりと、タネの頭の先っぽが、土の外に出てしまいました。
 タネは、あわてて土の中にもどらなければならない、と思いました。
 (早くもどらないと、なんだか「へんてこ」な、「おそろしい」ものが、ぼくの頭をがぶり、とやるぞ。)
 でも、なんだか「へんてこ」も、「おそろしい」ものも、何もがぶり、とはきませんでした。暖かな春の風が、優しくタネの頭をなでて通りすぎてゆきました。
 タネは、少しおちつきました。
 (れいせいにならなくっちゃ。きんちょうしていると、ウキウキが来ても、気がつかずに、見のがしちゃうかもしれないもの。)
 タネは、できるだけれいせいに、そっと土の外をながめました。すると、目の覚めるような青空が、タネの目にとびこんできました。
 (ああ、なんて青い空なんだ…!)
 タネは、うっとりと空をながめました。ピンクの花も見えました。
 (なるほど、可愛い色だなぁ。トカゲくんたちが、言っていたとおりだ。)
 タネは外の世界に夢中になりました。湖や、もっと他のもの、特に「ウキウキ」を一目見たい、と思い思いきり背のびをしました。
 その時、タネの後ろで声がしました。
「きれいな緑色ですね。」
タネはその声に、しぜんに答えていました。
「ええ、まったくきれいな山の色ですね。」
声の主は、また言いました。
「いいえ、山ではなくてね、あなたの新芽の色ですよ。」
 タネは驚いて、ふりむきました。そこには、黄と黒のしましまの、小さな生き物がニッコリ笑って立っていました。
 タネは、おっかなびっくり尋ねました。
「あのう…キミはもしかして、ぼくの頭をガブリ、なんてしてやろうと考えていらっしゃいますか?」
 しましまは、ちょっぴりあわてて、そして笑って答えました。
「いいえ、ぼくはミツバチのポーです。キミをガブリ、なんてしないので、安心して下さい。」
 タネは、この小さなポーが、危険でないとわかったので、こう言いました。
「ポー、キミは、ぼくが芽を出して初めてお話をした生き物なんだよ。ぼくのお友達になってくれませんか?」
 ポーは、やっぱりニコニコして、言いました。
「もちろんです。ボクも、キミが芽を出すのを、心から待っていたんですよ。」
「待っていた?ボクのことを…?」
 タネは、ポーのことばを聞き、心に、暖かく、嬉しい風がふいたように感じました。

 (ああ、こんな気持ちは、初めてだ。)
ポーは言いました。
「早くきれいな花を、咲かせて下さいね。キミの花は、きっと素晴らしいことでしょう。」
 その日から、タネは自分がおくびょうだったことを忘れました。ポーの嬉しいことばのおかげで、すくすくと育ち、今ではタネではなく、立派な『つぼみをつけた花』になっていました。
 いよいよ花を咲かせた日、親友のポーが一番に花のミツを集めに来ました。ポーは感激して言いました。
「なんて甘くていいかおりなんだろう。思った通り、キミの花は美しく、ミツは最高においしいよ。」
 花も、ポーに喜んでもらって、とても幸せでした。他のチョウやアブも、花の美しさとミツをほめてくれました。
 (みんなが、ぼくをほめてくれる。みんなが、おいしいと喜んでくれる。こんな気持ちは、初めてだ。)
 何日かして、一匹のクマが花のところへやってきて、言いました。
「花くん、とってもおいしいハチミツを、どうもありがとう。」
 花は驚き、尋ねました。
「ぼくのミツを、クマさんが知っているのはなぜ?」
 クマは答えました。
「ミツバチのポーくんが、毎年ハチミツを少しわけてくれるんだ。今年のハチミツは、とびきりおいしいねって言ったら、キミから集めたミツで作ったって教えてくれたんだよ。」
 花は涙が出そうになりました。
 (ぼくのミツで、こんなにおおぜいの仲間が喜んでくれた。こんなにおおぜいの友達が出来た。もうぼくは一人じゃない。ぼくは毎日が楽しくって、仕方ないんだ。こんな気持ちは、初めてだ。)
 花はクマに言いました。
「ぼくが土の外に出てからね、たくさんの初めての気持ちを味わったよ。そしてね、花を咲かせて、本当によかったって思ってるんだ。ぼくは、もう一人じゃないから、何だって出来る気がしてるよ。」
 クマが花に答えました。
「うん、キミがウキウキする気持ち、よくわかるよ。初めての気持ちは、いつもウキウキするものさ。」
花は、クマのことばに、大きくゆれて、しみじみと言いました。
「あぁ、そうだったんだ!ぼくもついにウキウキを見つけたよ!ウキウキは、こんなに嬉しくて、優しいものなんだね。ぼくが見つけようとすれば、すぐそばで、いつもぼくのことを、見つめてくれているものだったんだ。」
 花は、ミツバチたちがダンスをする下で、小きざみにゆれました。それは、笑っているようにも、ハミングしているようにも見えるのでした。

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