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ミツバチの童話と絵本のコンクール

お腹の中のイモ畑

受賞住吉 ふみ子 様(広島県)

 ある春の日、
 おなかをすかせたうわばみが、大きなかしの木の上からえものをねらっていました。もう、なん日も食べていません。おなかはぺこぺこで、まるでそうじきのホースみたいに、しわしわに縮んでいます。
「ああ、早くえものを飲んで昼寝でもしたい。だれか来ないかなあ……。」
 そう思いながら下を見ていると、ちょうどいいぐあいに、お百姓のたつやんが、クワをかついで歩いてきます。
「おっ、こりゃうまそう。」
 うわばみは、しわしわに縮こまった体をぬうっとのばすと、ぱっくりと、一口で飲み込んでしまいました。
「さあ、山に帰って、ひと眠りしよう。」
うわばみは、ふくらんだお腹をゆさゆさゆすりながら、帰って行きました。
 山の岩穴は、涼しくて、昼寝にちょうどいいぐあいです。
「あーあ、くたびれた。さあ、寝るぞう。」
 うわばみは、はみがきをして目をつぶりました。
 するとそのとき、
 グワーッ ゴワーッ
 腹の中から、大きないびきが聞こえてきました。
「なんと早いこと。おれ、もういびきかいて寝てるぞ。」
 うわばみは、目をあけてけらけら笑いましたが、ちょっと首をかしげると、こうつぶやきました。
「おれが寝てるんなら、どうして、おれは目を開けているんだ?」
 グワアア ゴワアア
 いびきは、やっぱり聞こえてきます。
「わかった、夢を見ているんだ。おれのいびきで目を覚ます、おれの夢を見ているんだ。なんだ、そうか。」
 うわばみは、安心して目を閉じました。
 が、その時、聞こえてきたのは、
「もう、ぼつぼつ、イモのつる植えんとな。」
という言葉でしたので、またしても、ぎょっとして目を開けました。
「なに、イモのつる、なんで、うわばみのおれがイモのつるを植えるんだい?」
 日ごろから、あまりむつかしいことを考えたことがないうわばみは、少し、頭が痛くなりました。ずきずきする頭を、あっちへかしげたりこっちへかしげたりして、ようやくわかりました。いびきは、腹の中のたつやんがかいているのです。
「お、おい、起きろ、起きろ。」
 うわばみは、大ごえでどなりました。
「ウイッ」
 と、しゃっくりのような音がして、いびきはピタリと止まりました。そして、腹の中から、たつやんの声が聞こえてきました。
「な、なんだい、ここは、どこだい、何だか薄暗い所だなあ。」
「へっ、そこは、うわばみさまの腹の中だよ。おれが、おまえを飲み込んだのさ。」
「あっ、そうだった。わしは畑に行こうとしていたところを飲み込まれたんだった。で、飲み込まれちゃ畑に行くことはできない、となると、きょうは仕事を休まにゃならん。ほかにすることもないからってんで、寝てしまったんだな。」

「へっ、のんきなやつだね。まっ、寝るのはいいけど、そのいびき、なんとかしてくれないか。おれのほうが寝られないじゃないか。」
「いびきを?…わしがかいてたかい?」
「かいてたどころじゃないよ。グワアア…ゴワアア…まるで山なりだよ。おまけに寝言つき、にぎやかなこったよ、まったく。」
「そうだったか、すまんすまん、気をつけるよ。」
 といって、また、眠り始めたたつやんは、五分もしないうちに、グースカピースカピチャピチャと、こんどは海なりのようないびきをかいています。
 うわばみは気になって眠れません。
「ちょちょっと、おいおまえ、いびきやめろ。やめないなら、寝るのやめて起きてろ!」
 と、腹をゆすって、たつやんを起こしました。
 たつやんは、頭をかきながら言いました。
「すまんすまん、だけどね、わしはこれまで、畑を耕すか寝るかしか、してこなかったもんだからね、起きていてもすることがないんだよ。あんたの腹の中じゃ畑を耕すこともできんだろ。ということは、寝るしかないんだよ。ムニャムニャゴオーッ。」
 と、もういびきをかいております。
「ちょっちょっと、まちな、寝ないで起きろ。ええっなんだって、畑を耕すか寝るかしかないだって?それじゃなにかい、たがやす畑があったら、起きて働くってのかい?」
「そりゃあもう、わしは百姓だからね、畑でなくたって土さえ見りゃあ、しぜんに体が動いて、耕すようになっているのさ。」
「ええっ、土さえ見りゃあだって、そりゃあいいやあ、土なら、ほれ、このとおり、見渡すかぎり、山の土だらけ、ちょっとまってろ、今から飲み込んでやらあな。山一個でいいかい。へっ、こう見えてうわばみさま、山の一個や二個のみこめるような、でっかい腹をしているのよ。」
 そういうと、うわばみは首をひょいと伸ばして、ザックリザックリ、隣の山を飲み込みました。
「ありがとよ。土も木も。山を一個、飲み込んでくれたんじゃのう。ありゃ、この木のうろには蜂蜜もあるぞ。こりゃあええ。蜂蜜なめてがんばるぞい。」
 腹の中のたつやんは大よろこびです。
 さっそく、クワで耕し始めました。
 カッカッカッカッ
 楽しげなクワの音を子守歌のように聞きながら、うわばみはぐっすりと眠りました。
 それから何日かした朝、
 うわばみがはみがきをしていると、腹の中からたつやんが言いました。
「おおいー、うわばみー、畑はよう耕したぞ。山の土なのに、よう肥えて、なかなかええ畑じゃ。遊ばせとくのはもったいない。土を飲み込んでくれたついでじゃ。イモのつるも飲んでくれんか。植えたいんじゃ。」
「なになに、イモのつるを畑に植える?…そうだなあ、そりゃ、おまえの言うとおりだな…りっぱな畑を遊ばせちゃもったいない。もったいないことしちゃ、ばちがあたるって、おれも、うわばみのばあちゃんからおそわった。もったいないことは、いかんいかん。よーし、いいとも、飲み込んでやらあな。千本もありゃあいいかい?」
 しっかり眠ったので、機嫌のいいうわばみは、ホイホイッと、イモのつるを千本、飲み込んでやりました。
 しばらくすると、腹の中から、たつやんの歌う声が聞こえてきました。
  イモイモイモイモ ホーイホイ
  モイモイモイモイ イーホイホ
  イモイモイモイモ ホーイホイ
  モイモイモイモイ イーホイホ
 どうやら、たつやんは、鼻歌を歌いながらイモのつるを植えているようです。いつまでたっても終わらない歌を子守歌がわりに、のんびりと、うわばみは昼寝をしました。

 それからしばらくして、朝うわばみが川で顔を洗っていると、また、腹の中からたつやんが言いました。
「おおい、うわばみ、イモのつるは、ぜんぶ、植え終わったぞ。イモ千本もうえられるなんて、うわばみというのは太っ腹じゃのう。」
「そうかあ、おれは太っ腹かあ…」
 うわばみはちょっといい気分になりました。
「そうとも、かわいいつるが千本。植わっとる様を、うわばみにも見せてやりたいのう。」
「うん、おれも見てみたいなあ。」
 うわばみは、自分の腹の中にぽしょぽしょと植わっているイモのつるを想像すると、何だかおなかがくすぐったくなって笑いたくなりました。
「せっかく植えたんじゃから大切に育てんとな。しっかり根付くように水をやらんといけん。水を飲んでくれんかなあ。」
「水、いいともよ。ちょうど今、川に来てるんだから、待ってなよ。」
 うわばみは、ずりずりと川の中に入ると、川上に向かって大きな口をあけて、ぐびぐびぐびぐび、水を飲んでやりました。
「ありがとよ。うわばみー。イモのつるがおいしいおいしいって飲んでるぞう。」
「そうかい、おいしいと言ってるかい。」
 うわばみは、ごくごくと水を飲むイモのつるを想像すると、自分も気持ち良くなって、いい気分で眠りました。
 それからまたしばらくして、
 うわばみがぐっすりと眠って目を覚ますと、腹の中からたつやんが声をかけました。
「うわばみーおはよう。」
「おお、たつやんか。イモはどうだあ?」
「うん、しっかり根付いたんじゃがのう、ただ、腹の中は、どうも薄暗うていかん。これじゃ陰気なイモができる。」
「陰気なイモ?…それは、どんなイモかい?」
「陰気なイモいうのは、にごうて、しぶうて、かぁらいイモじゃ。」
「にごうて、しぶうて、かぁらいイモ?」
 うわばみは、口の中がにがくなったり、しぶくなったり、かぁらくなったりしてきて、顔がしわくちゃになりました。
「いかんいかん、そんな陰気なイモになったらいかん。どうしたらいいかあ。」
「そりゃあ、お日様があったらええが、いかにうわばみといっても、お日様は飲み込むことはできんじゃろう。」
「お日様かあ…」
 うわばみは、空のお日様を見ました。
「ごめんな、うわばみ。気にせんでええぞ。」
 気にするなと言われると気になります。
「おまえはいいかもしれんがな、おれの腹に陰気なイモができるなんて、考えるだけで気がめいってくる。よし、お日様でも月でもまかせとけ、飲んでやらあ。」
 ちょうど、お日様はかしの木のすぐ上あたりです。うわばみは、急いでかしの木のねもとまで行くと、大声で腹の中のたつやんに言いました。
「今から、お日様をかじりに木に登るからな。ちょっと傾くぞ。しっかりつかまってなよ。」
 それから、えっちらおっちら、登り始めました。腹の中のたつやんは、ずりおちないように、うわばみの腹の皮をぎゅうっとつかみました。たつやんのつめが、うわばみの腹の皮につきささります。うわばみは痛くて木から落ちそうになりました。それでも、一生懸命、歯をくいしばって、どうにかかしの木のてっぺんまで登ることができました。枝に体を横たえると、首を思いっきりのばして、お日様の下の方を、前歯二本ぶんほど、かじりとりました。
 あちあち あちちち
 ほは ふは ほほほ
 爆弾の弾をころがすように、口の中をあっちこっちへやりながら、どうにかこうにか飲み込みました。
 口にも喉にも火傷をして、ひりひりします。
 お日様のかけらは、うわばみの腹の中で、ちんちんと燃えました。
「ありがとう、ありがとう。これで明るくてうまいイモになるぞう。」
 腹の中から、たつやんの喜ぶ声が聞こえてきます。
(はふはふ 良かったなあ。はあはあ)
 やけどの口に膏薬をぬりながら、うわばみもうれしくなりました。

 それからしばらくすると、腹の中からたつやんの、まのびした歌声が聞こえてきました。
  ねんねんころころ いもころろ
  おいものふとんは おやまのつちよ
  つちのふとんは あったかいか
  あったかけりゃ いいこでねんねしな
 たつやんは、イモに子守歌を歌っているのです。
「おいおい。イモに子守歌なんて、わかるのかねえ?」
「わかるともよ。わかって気持ちようなって、ぐっすり眠れて、のびのびした、ええイモになるんじゃ。」
「ふうん。そんなもんかねえ。」
 うわばみも、何だか気持ちがのびのびしてきました。
  ねんねんころころ いもころろ
  いもをだくのは  おやまのつちよ
  ねんねんころころ つちころろ
  つちをだくのは うわばみさんよ
  うわばみだくのは だれじゃろか
  ひろーいひろーい おそらじゃろうか
 たつやんの子守歌はいつまでも続きます。
 聞いているうち、うわばみも眠くなりました。水やらお日様やら飲んで、くたびれました。たつやんの子守歌を聞きながら、イモと一緒に寝てしまいました。
 そのうち、たつやんも歌い疲れて寝てしまいました。それで、子守歌は、グワアア、ゴワアアという、豪快ないびきに変わってしまいましたが、うわばみは、目を覚ましませんでした。いびきにうまく乗っかって、体を伸ばしたり縮めたりしながら、波乗りスタイルで眠り続けました。

 それから、ずいぶんと日が過ぎました。
「うわばみーうわばみー。」
 たつやんの呼ぶ声で目を覚ました時、あたりはもう秋でした。
「イモができたぞ。イモができたぞ。ありゃイモだけじゃない。蜂蜜が酒になっとるぞ。木のうろの蜂蜜が酒になっとるぞ。」
 腹の中から、たつやんが、浮き浮きした声で言います。
「何、酒だって!」
 うわばみはゴクリとつばを飲み込みました。
 うわばみは酒が大好きなのです。
「うわばみが水を飲んでくれた時、木のうろに水が入って、蜂蜜が薄まったんじゃな。それから、お日様も飲んでくれたから温度も上がって発酵したんじゃろうよ。」
「そしたら、何かい?その酒は、このおれが作ったってことかい?」
「そうとも、これはうわばみが作った酒じゃ。どれ、一口。うめえ。甘うてうめえ。」
「ちょちょっと待て。その酒はおれが作った酒じゃないか。勝手に飲むなー。」
 うわばみは叫びました。
「すぐ、おれもそこへ行くからな。それまで飲むんじゃないぞ。」
 うわばみはきがきではありません。大急ぎでたつやんの所に行こうとして、はたと考えこみました。
「どうやったらお前の所に行けるんだい?」
 たつやんも考えこみました。
「ものごとは順序だてて考えんとな。そもそもわしが、ここにいるのは、うわばみのあんたが、わしを飲み込んだからじゃ。ということは、あんたがあんたを飲み込んだら、あんたもここに来れるんじゃないか?…」
「本当だ。おれがおれを飲み込んだらいいんだ。」
 うわばみは、うなずきました。それから口を大きく開けて、えいっと自分の口にとびこみましたが、食道の途中で止まってしまいました。
「どうして、そんなところで止まるんだい?」
「止まってるんじゃない。つまったんだ。」
「つまっただって。なんと、大きな頭だこと。つまるんじゃあつまらんから、こっちへくるのはやめるかい?」
「こ、こんな時につまらんしゃれなんか言うな。やめるも何も、つまってるってことは、前にも後ろにも進めねえってことなんだよッ。く、苦しい。とにかく、進みだしたんだから、前に進むしかないんだ。おい、たつやん。お前ねえ、ぼやっとしてないで、そっちからおれの頭をひっぱってくれよ。おれがおれを飲み込んだらいい、なんて言ったのはお前なんだからね。ぐうーっ、ぐるしいー。」
「よし、わかった。こっちから引っ張ってやるからな。うわばみ、頑張れよっ。」
 たつやんは、あわてて、うわばみの頭をつかむと綱引きのように力一杯ひっぱりました。
 よいしょこらしょ…
 うわばみの頭はずりずりと引っ張られます。
「いててて!いてて!」
 うわばみは悲鳴をあげました。
「大丈夫か。」
 たつやんはひっぱるのを止めました。
「止まるな!こんなところで止まられちゃおれが困るんだぞう。いいから前に進めーっ。い、息がつまる。早く前に進んでくれーっ!」
「わ、わかった!」
 たつやんは、うわばみの頭を肩に背負うと、一、二、の三でダッシュをかけてかけだしました。
「うわばみ、歯をくいしばれー。一時の辛抱だぞー。」
 うわばみの頭を背負ってたつやんは走りました。うわばみのお腹の中を、びゅんびゅんびゅんびゅん、全速力で走っているうち、とうとう、たつやんは肛門から飛び出してしまいました。肛門から飛び出しても、たつやんは止まりません。勢いがついて、もう止まれないのです。うわばみの頭をかかえて走り続けるので、うわばみの体は、くるっと裏返ってしまいました。

 その途端、
 山一面がイモ畑になりました。うわばみのお腹の中で育ったイモが山一面 にころがっていったのです。さすが千本のイモのつるからできたイモです。一万個くらいはありそうです。どっちを見ても、
イモイモイモイモ…
「これこそ、芋を洗うような混雑じゃのう、うわばみ…ありゃ、まあ!」
 うわばみは裏返ったまま、空気が抜けたゴム風船のようにのびていました。
「うわばみーしっかりせい!」
 たつやんは、うわばみの体をもう一度裏返して体を揺すりました。
 目をあけたうわばみはたまげました。
 元気な子供の顔のように、赤くてまるまるのイモたちが、ころころころころ、山の上に山盛りにころがっているのです。
「うわばみの腹の中で育ったイモだぞう。」
「こんなにたくさんのイモが、おれの腹の中にあったのかあ?!…」
 うわばみは、一万個のイモが自分のお腹の中にある様子を想像して、うーんとうなり、また目をまわしてしまいました。
 日が西に傾いて、空は薔薇色の夕焼けです。
 うわばみとたつやんのお祝い会が始まりました。ごちそうは、焼きイモと蜂蜜の酒。
 木のうろの蜂蜜酒はうわばみが裏返った時にもこぼれませんでした。それどころか、一口飲むと一口分、湧いてくるのです。不思議な酒樽のような、木のうろです。
 うわばみは張り切りました。
「腹がすかすかで、いくらでも入るぞう。よおし、今日は飲むぞう。」
 顔を夕焼け色に染めながら、うわばみは、ぐいぐいぐいぐい、蜂蜜酒を飲みました。
 そんなうわばみを、楽しそうに眺めながら、
 たつやんも、
 ほかほかの焼きイモをほおばりました。

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