ミツバチの童話と絵本のコンクール

ミツバチがやって来た!

受賞古野 孝子 様(東京都)

何年かたって春になると、村の原っぱには一面のレンゲの花が咲くようになりました。丘のミカンの木も育ちました。
ケンはたくましく大きく成長しました。今ではケンの通訳なしに村人はハナバの口元を見つめているだけで、なにを話しているのかわかるようになりました。
しかしハナバは昔と変わらず今でも年寄りでした。みんなはもうハナバがいくつになったのか忘れました。
小さな女の子も昔のままでした。その女の子は話をしないのが当たり前で、誰も少しも不思議に思いませんでした。
大きくなったケンは、小さい女の子に羽があることなどすっかり忘れてしまいました。
それぞれ違った姿や暮らしがあって当たり前。天も地もすべてを大事にする暮らしが根づいて、それぞれの生き方を大切に思うやり方を守るようになりました。

翌年はことのほか暖かく、レンゲ畑は勢いよく美しく咲きそろいました。
村人がぼうぼう屋敷の入口に貼られた一枚の紙を見て、大騒ぎになったのはそんな日のことでした。
〜ハナバと女の子はこれから長い旅に出ます。いつ戻れるかわからない旅です。長いことお世話になりました。おかげさまで幸せに暮らしました。〜
全ての村人がぼうぼう屋敷に集まったときです。ごーっと言う羽音とともに、昼間の明るさを遮って黒い固まりのようになったミツバチがぼうぼう屋敷めがけて舞い降りてきました。
「ミツバチだ!」
長年待っていたミツバチの大群が押し寄せたのです。
こうしてハナバ達がいなくなったぼうぼう屋敷に住みついたミツバチは、村人と仲良く暮らし、年に二回、レンゲとミカンの花からたっぷりな蜜を村人にプレゼントしたのです。
村人はミツバチのおかげで栄養たっぷりの蜜の他に、針治療まで施され、ミツバチを大切にしながら暮らしていきました。
村はいつしか、季節ごとの花が咲き乱れ緑が生い茂る、艶やかな香りのいい所になりました。
ケンはミツバチの羽音を聞くと、ふと懐かしくあの女の子のことを思うのですが、果たしてそれが夢の中の出来事なのか、小さい頃に読んだお話だったのか分からなくなってしまうのです。
しかし村の長老になったゲンゴロウ爺さんだけは、あのオンボロ車に乗ったハナバが、今でもこの村の見張りをしながら、ガタランゴトロンと車を運転して回っているというのです。もちろんあの小さい女の子も乗っているそうです。

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