ミツバチの童話と絵本のコンクール

ミツバチがやって来た!

受賞古野 孝子 様(東京都)

いつもならお日さまが沈むと、お月さまの光だけがきらりんと輝いている、し〜んとした夜になるはずでした。
ところが今日は違います。どこの家でも遅くまで明かりが消えず、昼間のボロ車の事を何度も何度もあきることなく話し続けていました。
ケンももちろん起きていました。昼間見てしまった女の子の金の羽のことを、父さんや母さんや兄ちゃんに、教えたくてたまらなくなってくるのです。
口がひとりでにムゴムゴ動いてしゃべれ、しゃべれとはやしたてるのです。
秘密にするってなんと難しいことだろう。ケンはしゃべりたくてたまらない自分に腹を立てていました。
しかし、
「二人だけの秘密」
と言いたげにニッコリ笑った女の子との約束を思い出しては、しゃべりたそうになる自分をなんとか我慢させたのです。
眠れないほどびっくりさせられた一夜が明ける前に、またもや大騒ぎが持ち上がったのです。
村一番早起きのゲンゴロウ爺さんが、いつものように愛犬ヨタを連れて日課になっている朝の散歩に出かけたところ・・・。
村のはずれの草がぼうぼうに生い茂った古いこわれかけた家に、昨日のボロ車のご一行様が住みついて、大掃除を始めているではありませんか。
それを見たゲンゴロウ爺さんは、村人がぼうぼう屋敷と呼んでいる村はずれの古屋から、たったの一分で、村の広場まで駆け戻ったそうです。普通なら十五分はかかります。
この大事件を早くみんなに知らせたいと思っても、村の人は昨日の夜更かしがたたって、まだ夢の中でした。
「なにをしてるんじゃ。早く起きろ!」
ゲンゴロウ爺さんは、火の見やぐらに駆け登ると朝の四時から半鐘をじゃんじゃん鳴らして、みんなをたたき起こしました。

じゃんじゃん半鐘で飛び起きた村人は、ねぼけ眼で飛び出してきました。
ゲンゴロウ爺さんの話も、ぼんやりした脳みそではなかなか理解できません。
「昨日のおばあさんと女の子は、ぼうぼう屋敷に引っ越してきたのか」
「あれだけ古い家だ。修理が必要だね」
「それに草が生い茂っているよ。草刈りもしないとね」
「おばあさんと女の子だけじゃ、大変だよ」
「みんなで手伝いに行こう」
村人の意見はすぐにまとまりました。
その頃にはみんなの頭もすっきりしてきました。引っ越しの手伝いに必要な道具を、おのおのの家から持ち寄ると、さっそくぼうぼう屋敷に向かいました。
ケンは長い竹のほうきを持っています。村の細い道をみんなは一列になって歩きました。
「それにしてもあのおばあさんはえらい早起きだね」
「元気者だね。頼もしいことだ」
みんなはうなずきあって感心しながら、頭をふりふり歩いていきました。

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