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みつばちの童話と絵本のコンクール 山田養蜂場の社会貢献活動


「山の神さまのこども」A


一般の部  佳 作 乗松 葉子 (東京都)

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 夕方、おばさんが療養所に迎えに来てくれると、父さんは町へ帰っていった。
 家へ向かう軽トラックを運転しながら、
「ここは山の中でなあんにもないから、健太には退屈かもしれないけどさ。でも、大好きな母さんと毎日会えるからいいよね」
 とおばさんが言った。助手席で、ぼくは黙ってうなずいた。
 母さんが療養所に入ったのは、五月のはじめ。それからは小さなマンションで、父さんとぼくの二人の生活だった。ぼくも父さんも寂しいなんて一言も言わなかった。だって、一度でもそんなことを言ったら泣き出してしまうくらい、本当は寂しかったからだ。



「コンビニなんてないからね、ここが唯一のお店なの」
 坂の途中にある小さな雑貨屋の前に車をとめると、おばさんは
「待っててね」
 と店の中に入っていった。小さな店の棚には、お菓子やパン、洗剤なんかがごちゃごちゃと並んでいるのが見える。おばさんは店の人と話こんで、なかなか出てきそうにない。
 ぼくはすっかり退屈して、助手席からおりると、ぶらぶらと坂道をおりてみた。道のわきから、すぐ山に入る林道がつづいている。  空をおおいかくすように大木が枝を広げていて、そのすきまから無数の線になって西日が差し込んでいる。山の奥へと続く一本道は金色の光に包まれていた。
 なんてきれいなんだろう。
 ぼくはすいこまれるように、その林道に入っていった。
 ギャアギャア!
 突然、かん高い声とともに、大きくて黒いものがバサバサッと飛び立った。
「うわあ」
 ぼくは仰天して、とっさに頭を抱えると、山道をかけて逃げた。しばらく走ってから、おそるおそる、あたりを見回すと、林の中はしんと静まり返っている。大きな鳥が、ぼくに驚いて、飛んでいっただけだったのかもしれない。
「ああ、びっくりした」
 今、来た道を戻ろうとして、どきんとした。道が二股にわかれている。
 あれ?どっちだっけ?
 とくんとくん、と心臓がなっている。落ち着け。入口からまだほんの少ししか入ってないはずだ。
 右側の道を少し進んでみて、もしちがったら、もう一度戻ればいい。ぼくは自分にそう言い聞かせながら、右側の道を進み……ちがう、この道じゃない!と立ち止まった。
 すぐに引き返して、今度は左側の道を歩き始めたけれど、また別の細い道があらわれた。この道もちがう。ぼくはどっちから来たんだ?
「おばさーん」
 ぼくの弱々しい声が暗くなりはじめた山にすいこまれていく。
「おばさーん。聞こえないのお?」
 ほとんど、半分泣き出しながらさけんでいた。
 ざあざあざあ。
 まるで、ぼくを山の胃袋にのみこもうとしているかのように木々が体をゆらしている。



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