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「健太、健太、みてごらん」
父さんの声で、ぼくは目を開けた。バスはごとんごとんと揺られながら、山道をのぼっていく。
「あれが母さんのいる療養所だ」
山のてっぺんに白い四角い建物が見える。あそこに母さんがいる。そう思うと、ぼくの胸はじわっとあつくなった。
ここは、母さんのふるさとだ。ぼくは、夏休みの間、療養所のある、この山あいの小さな村で過ごすのだ。
村には、母さんの妹、つまりぼくのおばさんが住んでいる。父さんは仕事で、町にもどらなければいけないから、ぼくはそこに一人で泊まることになっていた。
「ちゃんと、あいさつしろよ。朝寝坊したらだめだぞ。おばさんちは農家で忙しいんだから、できることは手伝わなくちゃ」
父さんは、ここに着くまで、何度も同じことを言った。
「わかってるって」
そう答えた時、いきなりごっとん! とバスが大きく揺れてとまった。
「丘の上療養所、丘の上療養所。終点です」
病室に入ると、ぼくを見つけた母さんの顔がぱっと明るく輝いた。
「健太ぁ」
ぼくは思わず、ベッドにかけ寄った。でも、いざ母さんを目の前にしたら、何も言えなくなってしまって、うつむいたまま、そっと母さんの白い手をさわるしかなかった。
母さんはぼくをぎゅうっと抱きしめて、ああ、健太に会いたかった、うれしい、うれしいと何回も言った。
なつかしい母さんのにおい。母さんは少し美人になったような気がした。髪がのびて、色が白くなって、顔もほっそりしたみたい。
「具合どう?」
父さんが聞くと、母さんは
「今日は特別いいみたい。二人の顔を見たら、すぐにでも帰れるような気がしてきた」
と言って笑った。
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