一回の戦いで、これほど多くの死傷者をだしたのは、日中戦争で、おそらく、はじめてだったと思います。
ぼくたち衛生兵の役目は、敵兵と戦うことではなく、戦場で傷ついた兵士を、たすけだすことです。
だから、鉄砲のかわりに、たんかをもって、戦場をかけまわらなければなりません。衛生兵は赤十字の腕章を、うでにまいた非戦闘員で、鉄砲でねらいうちしてはいけないことになっています。
しかし、流れ弾にあたって、死傷する衛生兵も、少くありませんでした。
銃声がやんで丘の上が静かになったとき、あたりは夜のやみに、つつまれていました。
日中両軍とも、ほとんど、勝ち負けのない、ぜんめつ状態だったので、丘の上は死傷者でうめつくされていました。
三十名の衛生兵のうち二十名が戦死、のこりの十名のうち、しごとのできるのが、たったの五名でした。
三頭の軍用犬のうち、一頭は流れ弾があたって死亡、一頭はすさまじい戦闘に、きもをつぶして逃げだし、元気なのは金太郎だけでした。
戦場にたおれている負傷兵のほとんどが、手あてをしても、たすからない重傷者で、戦争のむごたらしさを、このときほど、かんじたことはありませんでした。
ぼくは星空をあおいで、
「これだけ星があるんだから、地球のように戦争ばかりしていないで、仲よく静かにくらしている星もあるにちがいない。そんな星に生まれてくればよかった…。」
と、ためいきをつきました。
そのとき、遠くのほうで、金太郎の鳴きごえがしました。ぼくは、ごろごろ、ころがっている死体につまずかぬよう、気をつけながら、金太郎のこえのしたほうに歩いていきました。
くたくたにつかれていて、走るどころか、歩くのが、せいいっぱいだったのです。金太郎は、そんなぼくに、しびれをきらして、かけもどり、早くおいでよ、と言うように
「わん。」
とほえて、いま来た方角に走っていきました。
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