犬にくわしい隊員が、この犬をひと目見て、言いました。
「こいつはイギリスのエアデールテリヤだ。
猛獣狩りに使う、きもったまの、ふとい犬だ。頭もいいし、体もがっちりしているし、ちょいと、くんれんしてやれば、いい軍用犬になりそうだ。」
犬のくびわに、金太郎という名前が、記入してありました。どうして、こんな、りっぱな名前が付けられたのか、ぼくたちは、くびをかしげました。
だが、そのわけは、すぐわかりました。ぼくは子どものころから、どんな犬とも、すぐ仲よしになれたものですが、この犬も、ぼくをひと目見て、百年も会わなかった友だちみたいに、じゃれついてきたのです。
彼はぼくの顔を、肉のかたまりと、かんちがい、したみたいに、大きいしたで、ぺろぺろなめまわしたのち、ぼくの足くびのゲートルをくわえて、すごい力で、ぐいぐい、ひっぱりました。
「おい、やめろ!」
と、さけんだときは、もうおそく、ぼくはあおむけに、ひっくりかえっていました。
彼はそれだけでは、まんぞくせず、ぼくの体にのしかかって、完全に、くみふせてしまいました。
それを見ていた隊員たちは、大よろこびで
「金太郎、やれやれ!」
と、犬をけしかけました。そんな隊員たちも、ぼくと同じ手口で、かたっぱしから、ひっくりかえされてしまったのです。
そうです。この犬は、足柄山の金太郎のように、すもうが大すきだったのです。
それで、金太郎という名前をつけられたのでしょう。
金太郎が、たちまちのうちに、部隊の人気者になってしまったのは、言うまでもありません。
ほかの犬たちは、隊員たちに、もてている金太郎を、うらやましそうに、よこ目で、ながめていましたが、どうすることも、できませんでした。
金太郎のように、ふうがわりな芸を身につけている犬は、ほかにいなかったからです。
また、金太郎のように、重い傷をおって生きている兵士と、死んでいる兵士を、くべつして鳴いてしらせる、むずかしい芸を身につけている犬も、ほかにはいませんでした。
「金太郎は人間に生まれてくるはずだったのに、なにかの、まちがいで、犬に生まれてきてしまったのさ。」
などと、まじめな顔をして言う隊員もあれば
「もしかしたら、足柄山の金太郎の生まれかわりかもしれないぞ。」
などと、うで組みをして言う隊員もいました。若林部隊長どのは、きっぱりと、こう言ってのけたものです。
「わが部隊で一番優秀な兵士は金太郎だ。」
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