さおりはお皿を洗ってぬれた手を、タオルでふきました。窓の外では、目には見えない細い雨の線が、しとしとと降り続けています。
……外にはいけないし、お絵かきしよう。
台所のテーブルでかくことにしました。まず、一匹のうさぎをかきました。色は真っ白で、耳はたれています。このうさぎは洋菓子店の主人なのです。
さおりは絵をかくとき、おはなしも一緒に作るのでした。絵は色鉛筆で、お話はその下に鉛筆で、書きつけていくのです。
「ええと、お店のケーキはみんな、この白うさぎが焼いていることにしよう」
さおりは流しの下をあけて、おかあさんがお菓子を作るときに使う道具を見ました。銀色のボール、ガラスのボール、それから、大きな泡だて器、サイズの違うケーキの焼き形、マドレーヌのプレート……。
イメージがふくらんでいきます。
「洋菓子店の名前は〈ひとやすみ〉。森の中にあって……。このうさぎはケーキを焼くのが上手で、お店で一番の人気は〈太陽のにんじんケーキ〉です……太陽のようにかがやく、黄金色のケーキです」
さおりは、ケーキをかきました。なかなかいい出来です。やわらかそうで、甘い香りがいまにもただよってきそうです。
「あまりにおいしいので、お客さんの誰もが秘密を知りたがります。けれども、うさぎは教えません……おいしさの秘密は、ええと、そう、ハチミツです。うさぎの友達に、いろんな国を旅しては、その土地のハチミツを手に入れてくる、ハチミツ屋さんがいるのです」
さおりは、うさぎがケーキを焼いている姿をかきました。
だんだん、気分がのってきました。
「ハチミツ屋さんは、黒うさぎです。危険な場所を旅するとき、黒い毛皮は有利です……闇にまぎれて、移動できるからです」
黒うさぎの目は、ちょっとするどくしました。一人旅は、あやふやな気持ちではいけません。
「〈ひとやすみ〉に届けるハチミツは、砂漠の国でみつけました。植物はあまり生えない土地なのですが、年に一度、砂漠のオアシスに、白い花が咲きみだれる時があるのです……」
さおりの手はとまりません。色鉛筆をつぎつぎに握って、ノートいっぱいに絵をかいてゆきます。文字を書くのも、口に追いつかなくて、もどかしいくらいです。
「その花の名前は〈砂糖草〉です」
砂糖草は、百合に似た花をかきました。
「砂糖草が咲くとき、空のどこかからか、黒い一団がやってきます。ミツバチです。砂漠の都市のハチミツ商人が、砂糖草の蜜を集めるために、訓練されたハチをはなつのです。というのも、砂糖草の咲くオアシスは、毎年場所が変わって、人が探すのはたいへんだからです……あれ?」
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