ぼくは吉井養蜂場に遊びに行ったことがある。吉井くんは巣箱や分離器を見せながら、みつばちのくらしを得意げに説明してくれた。
はちみつとローヤルゼリーのちがい。みつばちのダンス。巣枠から蜜ぶたをはがす時のワクワクする気持ち。将来はぼくもはちみつを作るんだ。はちはべつに、怖くないよ。
「うんと小さい時からみつばちと一緒だから、兄弟みたいだね」
おやつには、はちみつたっぷりのホットケーキを食べた。
「はちみつは楽しく食べなきゃな。はちたちが一生懸命にたくわえたはちみつだろ。自分たちのつくったはちみつを人間たちはどうするのか。はちたちは、きっと気にかけているよ。だから、みつばちには感謝、かんしゃ」
おじいちゃんは、タバコの煙をふーっと吐いていた。
吉井くんの家のチャイムには、みつばちが一匹とまっていた。ぱたぱたと手で追い払って六回も鳴らしたのに、誰も出てこない。あきらめて帰ろうとしたとき、門の内側で小さな女の子がニコニコしながらぼくらを見ていることに気がついた。なんだか桑田さんにちょっと似てるぞ。吉井くんに妹なんて、いたっけか。
「純一くんは、家にいる?」
ときいても、首をかしげるだけ。
「吉井くんのお母さんに渡してよ」
塩津さんから柵ごしにプリントを受け取ると、女の子は庭の方へかけていった。
帰り道にアイスを食べながら見た夕焼けがきれいだった。
「わたし、吉井くんちに電話してみようかな」
そうだね、と言いながら、桑田さんも誘えばよかったな、と思っていた。
次の日、先生から吉井くんの話しを聞いた。
しばらく入院すること。その病気は進行性であること。
「それとね、退院後の吉井くんは、車いすの生活になると思います」
みんなが先生の顔を見た。塩津さんは吉井くんの机の上のホコリを左手で丁寧に払うと、引き出しから汚れた紙ひこうきを取り出し、しばらく眺めてそれをしまった。
一時間目の算数は、吉井くんへの寄せ書きの時間に変わった。
クラスを代表して、塩津さんとぼくがお見舞いにいくことになった。ぼくは桑田さんも誘った。
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