また、やろうとしてんだろう。
怒られるぞう。
藤野先生が黒板に黄色いチョークを当てた。
カン!
という音を合図に、白い紙ひこうきは窓のすき間から伸ばした吉井くんの手を、滑るように離れた。
「とってきなさい。いそいで」
静かにオコる先生の声は、どなり声よりオソロシイのだ。
それにしても先生、後ろにも目がついているなら、広川くんにも注意してくれませんか?
広川くんは授業中、小さく切った消しゴムをぼくの背中にぶつけてくるんだ。
となりの席の桑田さんは、嫌がらせをうけて困っているぼくと目が合うと、一緒に困った顔をしてくれる。
東京から転校してきた桑田さんは、勉強はよくできるけど、おとなしい。おとなしいから、友達があまりいない。いつもポツンとしている感じ。まあ、男子の中で一番仲がいいのは、ぼくかな。
吉井くんが学校を休んだ。
藤野先生は朝の会で、
「吉井くん、お医者さんにいくんだって。
だから今日はお休みです」
って言ったけど、チョークの粉を黒板消しで真ん中に集めながら、
「少し、長くなっちゃうかもね」
なんて、一番前の山下さんに言ってたぞ。聞こえたぞ。
吉井くんが休みだして三日目。
塩津さんは吉井くんのとなりの席で、きれいなさし絵のある本を読んでいる。
ぼくが
「ずっと休んでんね」
と言ったら、
「ね」
と、空いている席を見た。
「なに読んでんの?」
「アンデルセン」
ぼくは吉井くんの席で紙ひこうきを折りながら、少しの時間、塩津さんとおしゃべりをした。
男の子って、そういうの上手だよね。親指の爪、大きいね。
「窓から飛ばしてよ」
塩津さんって、ハキハキしてるなあ。窓際の席っていいな。
「えー」
怒られるのも、外まで取りにいくのも嫌なので、ぼくの席に向けて飛ばしたら、桑田さんが自分のそばに飛んでくるひこうきを無視して、ぼくらを見ていた。
そんな桑田さんを、ほお杖をついた広川くんがにらんでいた。
「帰りさ、はっちの家行くけど一緒に来る?」
その日の昼休み。塩津さんは吉井くんの机の中のプリントを丁寧にたたむと、自分のランドセルにしまった。
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