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さて、ミナトマチ音楽堂は、古い建物でした。昔はきれいな海の色の壁で、窓のステンドグラスはとろりとしたはちみつ色でした。音楽家たちがいっぱいやってきて、いつも楽しい音楽をかなでていました。
ところが今はどうでしょう。
青かった壁ははげちょろのねずみ色、窓はにごった枯葉色。中も外も潮風でぼろぼろ。屋根にも床にも穴があいていました。そして、天井はクモの巣だらけというありさまでした。もうだれも、何年も、ここで音楽会をひらく人はいません。
持ち主はものすごく年取ったおばあさんでした。コンメリーナという名前です。がんこでへんくつ。へそまがりでいじわる。優しい心なんかひとっかけらもない人でした。
顔を見れば、どんなにいじわるばあさんだかすぐわかります。
げじげじまゆげ、つりあがった目、へしゃげた口。その口から飛びだすのは、きまって皮肉か悪口です。コンメリーナばあちゃんに会って、いじわるをされたことのない人はひとりもいません。ばあちゃんをいい人だと思う人もひとりもいませんでした。
そのくせコンメリーナばあちゃんのところには、毎日いれかわりたちかわりお客さまがありました。友だちではありません。みんな、音楽堂を売ってほしくてやってくる人ばかりでした。
「おばあさん、音楽堂をわたしに売ってください。ここは場所がいいから高く売れますよ。リゾートマンションをたてるんです」
横島不動産のダボラ氏がねこなで声をだします。でも、コンメリーナばあちゃんはびくともしません。
「ふん。おあいにくさま。あたしゃ、お金なら、売りたいほどあるんだよ」
にこにこ世直し委員会のハリセンボン・ノーマス氏もやってきます。
「こんなお化け屋敷みたいなものが、街のまんなかにあるのはよろしくありませんなあ。海が見える公園にして、お花をうえたら、みんなよろこびますよ。わが会に寄付してくれたら、みんながあなたを見直しますよ。うそは言いません。うそついたら……」
ハリセンボン・ノーマス氏がしまいまで言わないうちに、ばあちゃんはどなりました。
「みんなをよろこばす? どうしてこのあたしが? みんながあたしに何をしてくれたって言うの? 人をよろこばすだなんて、そんなばかげたことはまっぴらごめん!」
なんてこわいおばあさんだろう。
おまけになんてけちんぼ。
みんなは口をそろえてそう言いました。
夢みつばちたちも、音楽堂の庭に住んでいるのに、けっしておばあさんのそばには近づきません。ホウキでたたきおとされでもしたら大変です。
ところがある日、キリコはいつものように、茶色い虹だんごのことを考えてぼんやりしていました。そして、ふらふらっと、おばあさんの部屋の中に飛びこんでしまったのです。
キリコはあせりました。
「たいへんだ。たたきおとされちゃうわ。ふみつぶされちゃうわ。どうしよう」
キリコはカーテンのかげにかくれて、コンメリーナばあちゃんをさがしました。
すると、なんてまあ……
ここにいるのはほんとうにコンメリーナばあちゃんでしょうか。
海の色のドレスを着ています。白い髪をゆいあげ、背すじをピンとのばしていました。頬はさくら色です。
キリコはぽかんとして、ばあちゃんにみとれました。
げじげじまゆげもへしゃげ口も、いつもよりこわくありません。こわいどころかきりりとして見えました。
コンメリーナばあちゃんは、優雅におじぎをすると、古いバイオリンをかかえ、ゆっくりと弓をひきました。
きれいな音でした。
キリコは四本の足をそろえ、二本を胸の前でしっかりと組み、頭をぐっとそらしました。
わくわくするような調べです。
羽がふるえました。
潮風の匂いがわきあがり、光としめりけがとけあっているときの空を飛ぶのとおなじ気持ち。クリーム色の朝の光をいっぱいあびて、銀の羽をせわしくうごかしているときも、こんな感じでした。
キリコはとうとうがまんできずに飛びあがり、コンメリーナばあちゃんの頭の上で、二度も三度も8の字を書きました。
その時です。
ぱーんと弓がはじけとびました。
コンメリーナばあちゃんは床にたおれ、とつぜん泣きだしました。
「おお、だめだ。だめ。コンメロンさん、あたしはあなたみたいには、どうしたって弾けっこないんだ」
コンメリーナばあちゃんはわあわあと泣いてしまうと、ハンカチでチンとはなをかみました。そして、古びたバイオリンにむかって話しだしました。
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