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四年生になって、かおりはおじいちゃんの住む町に転校する。新しい学校の周りは、一面のレンゲ畑が広がっていた。はるかかなたには、なだらかな山並みが連なっている。
かおりは、学校の休み時間に三階の教室の窓から、よく外を見る。
(いいながめだなあ)
真っ青な空から、春の光が降りそそぎ、町中に広がるレンゲ畑は、まるで桃色の海のように見えた。
ときおり、気持ちのいい風が通りぬけると桃色の波がおこる。波は、どこまでも、どこまでもつながっていた。
(お父さんとおじいちゃんも、今どこかの桃色の海の上で、ミツバチといっしょに働いているのかな)
かおりがレンゲ畑の上を、ひらひらと飛ぶモンシロチョウを、ながめていると、突然後ろから肩をつつかれた。
「わたし、水谷たまえ。縮めて、水玉。どう、覚えやすいでしょ」
たまえは、人なつっこい笑顔で、話かけてきた。
たまえは、くっくっとのどを鳴らして、くったくなく笑う。水玉のように丸い顔には、二つのかわいいえくぼがあった。
「今日学校の帰りに、いのけんの子ぶた見に行くの。いっしょに行かない?」
たまえは、自分の鼻をちょっと上向きに持ち上げた。
「いのけんの子ぶたって?」
かおりは、たまえのしぐさにつられて、笑いながら聞く。
「あっ、ごめん。いのけんって、井上けんたのこと。いのけんの家に、かわいい子ぶたがいるんだよ。それが、すばしっこくてね。なかなか、つかまえられないの」
たまえは、教室の後ろでプロレスごっこをしている、ぼうず頭の男の子を指さした。
(子ぶたなんて、見たことない。ちょっと、さわってみたいな)
「ごめん。今日、用事があるから」
とっさにかおりは、たまえにそう言ってしまった。
かおりは授業が終ると、一人で校門を出る。一目散に家に向かった。
レンゲ畑に沿ってしばらく歩いていると、ランドセルを背負った背中が、汗でじんわりとしめってくる。鳥の群れが一団となって、かおりの頭上を通り過ぎた。
赤いかわら屋根の家を通り越して、菜の花畑を横切ると、かおりの家が見えてきた。
かおりは、門の所にあるポストを開ける前に、一瞬目を閉じる。
(今日は、来ていますように)
ポストの中は、空っぽだった。
(友美も広子もぜったい、手紙書くって言ったのに、なんで手紙がこないんだろう)
「ただいま」
家の中は、がらんとしている。かおりが帰ってくると、いつもはすぐに出て来る、お母さんの姿がない。
「レンゲ畑にいます」
台所のテーブルには、お母さんの字で書かれた置き手紙がある。かおりは、ランドセルを下ろすと、外に飛び出した。
春は、養蜂の仕事が忙しい季節だ。冬の間、巣箱の中で、寒さにじっとたえていたミツバチたちが、春になると元気に動き出す。
レンゲの花が咲くと、ミツバチたちが集めたはちみつを、巣箱から取り出す仕事がいよいよ始まる。
「かおり、ここだよ」
お父さんがレンゲ畑の向こうから、大きく手を振った。腰をかがめて働いているおじいちゃんとお母さんの姿も見える。
「おかえり」
立ち上がって、お母さんが近づいてきた。ハチよけネットをかぶったおじいちゃんが、右手を上げて合図する。
「もう、ちょっとで終るから。かおり、あそこの木の下で待っていて」
かおりは、少し離れた木陰に座って、働いている三人をながめる。お父さんとお母さんは、大きな麦わら帽子をかぶって、巣箱の回りの雑草を刈っていた。
二人とも、すっかり日焼けして、生き生きしている。特にお父さんは、ミツバチといっしょに働いているのが、すごく楽しそう。会社勤めをしていた頃のお父さんとは、まるで別人みたいだ。
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