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そういえば、ほんとは帰りに喫茶店に寄るのは禁止だけど、同級生の家でもあるしと、友達のタカシを連れてきた事があった。
一緒に美術部に入った、小学校からの仲良しだし、あいつもケーキ好きだしな、と思ったからだ。宣伝にもなるし。
けど、一緒に来たのはその一度だけ。タカシの一言に、僕がちょっとイラッときたせいだった。
この店の壁には、六角形の形が集まった蜂の巣のような飾り棚がある。タカシはそれを見て、
「こういうのってハニカム構造、っていうんだよね。ハニカムだけに蜂もはにかむ、なんつって」
と言ったのだった。
そう、タカシは、中学一年、十二歳にして、思いついただじゃれは言わなきゃ気が済まないというオヤジみたいなヤツなのだった。ここだけは本当に僕は我慢がならない。
僕がほんとに怒ってるのを見て、純がまあまあ、と間に入った。けど、僕は二度とこいつを誘うもんか、と、心に決めてしまったというわけ。
それはともかく、このこじんまりした店内が、満員になっているのをまだ僕は一度も見たことがない。黒いジーンズに腰ばきのエプロン姿の純を、可愛い男の子と勘違いした高校生のお姉さんグループが来てたことあったけど、そのくらいかな。
そんなに忙しいことないだろ、という気持ちが顔に出てたらしい。僕の心を読んだように、純はつけ加えた。
「それにね、常連さんもできたんだよ」
ふとみると奥の席に、女の人がひとり座って、本を読みながら何やらメモを取っていた。長い髪を後ろで束ねただけで、お化粧はしてなかったけど、さっぱりした感じの、きれいな人だった。
「知ってる?作家なんだよ。山崎ちさと、っていうんだけど」
ジュニア向けのミステリーを書く人だ。その手の本は好きなので、僕も知っていた。
「ああ、なん冊か読んだことある。それに息子がウチのクラスにいるんだよ」
「あ、だよね。私もそれは聞いたことある。仲いいの?」
「何度か話したくらい。あんなきれいなお母さんがいたなんて意外」
「うん、私も思った。いつも、ひとりで来て、蜂蜜添えのコーヒーを注文してくれるんだ」
「蜂蜜?コーヒーに?」
「うん。飲んでみる?」
正直、僕はコーヒーの苦みは好きじゃない。だけどお子様と思われたくないのと、山崎ちさとという人が何となく気になったので、ちょっと飲みたくなって、ついうなずいた。
純はコーヒーと一緒に、ガラスの小さな容器に入った、黒蜜みたいなものを持ってきた。
「これ、蜂蜜なの?」
「そう。コーヒーの花の蜂蜜」
溶かして飲んでみると、不思議な味がした。やっぱり苦い。でも胸の奥にすうっと、吸い込まれてく感じ。悪くないかも。
味わっているうち、ふっと思い付いた。
「これから図書館行ってくるよ、町の」
「ああ、この店からは近いよね。でも何で急に?」
「本が読みたくなったんだ。雨で暇だし」 |