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みつばちの童話と絵本のコンクール


「ミツバチ、鼻にはいった!」
一般の部 佳作
白川 ミコト (愛知県)

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 いつのまにか、でこぼこ畑で、おいかけっこがはじまった。ぼくらは、ほりおこしたばかりの土の上を走り回った。ママはつかまりそうでつかまらない。
「ママは、こんなにもすばしっこくないはずだ。それに、散歩は好きだけど、運動は嫌いだ。いったいどうなっているんだ?」
 ぼくが息をきらしてしゃがみこむと、キャッチはとくいげに笑った。
「あたしが、ママの頭の中をおかりしているからよ。あたしは、足がはやくて肩がつよくて、バッティングもよくて頭もきれる、四拍子そろったキャッチャーなの」
 キャッチは、ごそごそと、しげみにはいっていった。どうやら草のツルを集めているようだ。五、六本ちぎると、手の中できようにつなぎあわせている。
「ねぇ、キャッチ、さっきは、どこのチームと試合をしていたの?」
 ぼくがたずねると、
「きまぐれガールズとよ」
 キャッチは、ボールのかたちにあんだ草のツルをほうり投げた。
「ようするに、気まぐれに仕事をさぼる、ミツバチの九人組よ。チームならもう一つあるわ。名前は、まじめガールズ。この子たちはやすみ時間にしか野球をしない九人組」
 ぼくは、キャッチの投げたボールをむねの前でうけとった。
「まじめガールズは、試合のとちゅうでも始業の鐘がなると、野球をやめてしまう。九回ツーアウト満塁、まじめガールズ、一発サヨナラの場面でも。しんじられる?」
 ぼくはしんじられないと首をふった。キャッチも、そうでしょうって笑った。
「気持ちのいい風ね。せっかくだから、あたしとキャッチボールでもしない?」
 キャッチの言葉に、ぼくはびっくりしてしまった。中身はミツバチのキャッチでも、外見はママなのだ。ママとキャッチボールをしたことなんて、生まれてこのかたない。
「ほら、はやく投げかえしなさいよ!」
「うっ、うん」
 ぼくはかたくなって、とんでもなくはやくて高い球を投げてしまった。すると、
「ぱちーん!」
 キャッチは、一メートル以上ジャンプしてうけとめた。
「ナイスボール!」
 キャッチは、はしゃぎながら叫んだ。
「いいボールを投げるじゃない!」
 ママにほめられているみたいで、ぼくはなんだかうれしくなった。ぼくらは、れんげ畑のとなりで、しばらくのあいだ、キャッチボールをつづけた。
 うっすらと浮かんだひたいの汗に、そよ風が気持ちいい。むねいっぱいに空気を吸いこむと、ほんのりあまい味がした。草木がゆれる音がする。とおくで鳥がなく。
 ママが田舎の暮らしにあこがれた気持ちが少しわかった。ここでは車の排気ガスが目にしみることも、工場の騒音に耳をふさぐこともない。
「ケン。あたしたち、ミツバチのとっておきの変化球を教えてあげましょうか?」
 キャッチが、ボールを手のひらでくるくる回している。
「えっ、ほんとうに?」
「ただし条件があるわ」
 キャッチは真剣な顔になった。
「いい? この変化球を投げるときは、バッターに、つぎ、変化球を投げますよと、宣言しないといけないの」
「どうして?」
 ぼくは首をかしげた。
「だって、ストレートを待っているバッターに、変化球を投げれば打てないでしょう?」
 キャッチはあたりまえのように言った。
「それはそうだけど…」
「勝負は正々堂々とすること! ほら、空を見てごらん!」
 言われたとおりに、空をあおぐと、白球がまいあがるのが見えた気がした。これまで何度こうして天をあおいだことだろう。ぼくのストレートは、ピンポン球のように、きれいに空へとはじかれる。
 それでも、ねずみ色のくやしさも、とけてなくなってしまうほどの晴天だ。
 キャッチの言うとおり、ぼくは、チームの万年補欠組みだった。たまに出番がまわってくる試合は、もうすでに大敗がきまったような試合ばかりだ。
「点をとられたら、おに監督にしかられるんだぞ。満塁ホームランなんて打たれたときには、ベンチにこわくてもどれないし、チームメイトの顔も見られないよ」
 ぼくがぼやくと、
「点数がはいらないと、野球はつまらないじゃないの!」
 キャッチはあきれて叫んでいた。メガネが鼻からずりおちて、口をぽかーんとあけている。おどろいた顔は、いつものママでは、とても想像できないくらいマヌケだ。
「それもそうだね…」
「ケンもそう思うでしょう?」
 ぼくは笑いだしていた。
「キャッチ。とりあえず、そのメガネをなおしてよ。それから、約束をまもるから、変化球を教えてくれないかな?」
「オーケー!」
 キャッチはメガネをかけなおした。
「この魔球は、八の字魔球と呼ばれているのよ。それには、誕生の秘話があるから」
 キャッチは腰をふってとびはねている。
「あたしたち、ミツバチは、一人で持ちきれない花粉を見つけると、ダンスをおどるきまりになっているの」
「ダンス?」
「そうよ。八の字ダンス。数字の八をよこにした形を、なぞるようにとびまわる。なかまに方角を知らせるために。ここに、たくさんの花粉があるわよーって」
 キャッチは話をつづけた。
「ある日のことです。一匹のミツバチが八の字ダンスをしていました。ところが、呼んでも呼んでも、だれもきません。みんな彼女に気づかなかったのよ」
 ぼくはうなずく。
「それでも、彼女はバスケットにはいらない花粉をかかえて、むきになっておどっていました。そして、手に持っていた花粉だんごをうっかりほうり投げてしまったのです!」
 キャッチは、手のひらのボールを、八の字に回転させている。
「ねぇ、どうなったと思う?」
 キャッチはたずねておきながら、ぼくの返事を少しも待たずに、
「こうよ!」
 回転をつけたボールを投げこんだ。ボールは回りながら、とちゅうまでストレートと同じ軌道でとんできていた。
 ところが、右に左にふわふわとゆれたかと思うと、突然、すとんと消えてなくなってしまった。
「あれっ?」
 気がついたときには、ぼくの手の中にすっぽりとおさまっていた。
「すごいや!」
「でしょう? さぁ、ケン。今度は、あなたのばんよ。投げてごらん」
 キャッチは、ボールのにぎりかたを、ぼくの手をとり教えてくれた。
 まるで、かげ絵のキツネを作るようなにぎりかただ。ひとさしゆびと、こゆびを持ちあげて、おやゆびと、のこりの二本の指だけでボールをにぎる。
「さぁ!」
 キャッチはしゃがむと、グローブを持っているみたいにかまえた。ぼくは深呼吸をしてふりかぶった。ママの大きな手のひらめがけて、ボールを投げこむ。次の瞬間、
「ぴゅーん!」
 ボールはあさって方向へとんでいった。
「わぉ! やっぱりいい球を投げるわ!」
 キャッチはボールをおいかけて走った。ぼくもあやまりながら走る。
「もっと八の字を意識してみたら。数字の八よ。まるいのが二つよ」
 ぼくはうなずくと、おやゆびで回転をかけるようにつよくひねった。
「あちゃー」
 またしても、ボールはあぜ道をころがってゆく。それでも、キャッチは笑っている。
 



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