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「三崎さんちのはちみつって高いって聞いたけど、いくらぐらいなの?」
翌日の朝、いきなりちかからそんなことを言われて、あゆみは驚きました。
「別に高くないよ。なんで?」
「三崎さんちのはちみつは高いってみんなが話してるのを聞いたことがあるから」
「うちのはちみつはそこらのとはちがうねんで。毎日朝もはようから日が暮れるまでずうっとお世話して、花のある所へ巣箱を持っていったり夏も冬も見回りに行くんや。そんでとれるんはちょっぽしやもん。もうけにはならんけど好きやから、わかるひとだけ買ってくれたらかまんのよ」
いつもとうさんやかあさんが話していることがあゆみの口から飛び出しました。本当にみんな全然わかってない、そう思うとくやしくて涙が出そうになりました。
「うん。だから買いたいんだけど」
ちかの言葉にあゆみははっとしました。
「もしかしたら、おかあさんに、あげるん?」
「うん。高いけど栄養たっぷり、三崎さんちのなめたら他のはちみつははちみつやない、って聞いたから、絶対に元気になると思って。でもあたし、あんまりお金持ってないから」
最後の方は恥ずかしそうにうつむきながら言いました。
「わかった。おとうちゃんに聞いてみる」
「ほんと?」
ちかの顔がぱっと明るくなりました。
「あたしずっと、ここへ来たらあゆみちゃんちからはちみつを買っておかあさんに送ろうってずっと決めていたの。でもなかなか言えなくて、でもおかあさんにはやくよくなってほしいから」
「わかった。ちかちゃんのおかあさん、絶対すぐよくなるよ、だいじょうぶ」
いつのまにかちかちゃん、あゆみちゃん、と呼び合っていた二人でした。
そんなことなら、持っていけ。ひょっとしたらそう言ってはちみつのひとびんくらいくれるかもしれない、とあゆみは思っていました。ちかのお金で足りなかったら自分のおこづかいを足してあげてもいい、そう思いながら話したのです。けれど話を聞いたとうさんは、
「ううーん、そりゃどうするかなあ」
と腕組みをして考え込んでしまったのです。
「なんでよ。とうさんのケチ。なあ、ちかちゃん、買うっていってるんやで。売ってあげたらよかね」
「あゆみの友達相手に商売はできん」
「じゃあ、ちょびっとだけあげれば?それがええわ。ちかちゃん、喜ぶよ」
「そうかな。ちかちゃん、喜ぶかな」
「喜ぶに決まっとる」
変なことを言うなあ、とうさんは。あゆみはまだ腕組みをしているとうさんを見ました。
「ちかちゃんは、自分でおかあさんにおくりものをしたいんとちがうかな。うちのはちみつをあげるのはかんたんじゃけど、それでちかちゃんの気はすむやろうか。おかあさんは喜んでくれるんかな」
あゆみはどきりとしました。あたしがかあさんになにかあげるとしたら、人からもらったものをそのまま渡すだけじゃあ気持ちが入っていないみたいでいやだな、と思いました。
「でも、売らんのやったらちかちゃんはおかあさんにはちみつをあげれんわ。うちのはちみつのことをほめてくれて、病気のおかあさんがうちのはちみつなめて元気になるかもしれんって言うてるのに」
「うーん」
とうさんの心はぐらぐら動いているようでした。
「まあまあ、なんにも難しいことないわ。ちかちゃんとやらにちょっとお手伝いしてもろて、そのお礼にはちみつあげたらすむことでしょ」
夕ごはんを作っていたおかあさんが口をはさみました。
「とうさん、お願い。あたしもやるから」
「うーん、それならいいか。さて、そんなら何をやってもらうかなあ」
なんだかみんなにこにこした気持ちになってあゆみはいつもより多く御飯を食べました。だって明日からあゆみも手伝うのですから力をつけておいた方がいい気がしたのです。
「え、ほんと?」
あゆみの話を聞いたちかは喜びました。
「良かったあ。あんまりお金ないし、どうしようかと思ってたの」
「あたしもいっしょにするから」
「え、いいよ。だってこれはあたしのことだもん」
「あたしからちかちゃんのおかあさんへのおみまい」
「うれしい。本当を言うと、一人じゃ心細かったんだ」
こんなにうれしそうなちかの顔を見たのは初めてでした。
学校の帰り、二人はわくわくとあゆみの家へ急ぎました。
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