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みつばちの童話と絵本のコンクール


「金のみつばち」
一般の部 佳作
水凪 紅美子 (群馬県)

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 女子にくらべて男子は、反応がよかった。
 虫は駄目でさ、と言う奴もたまにはいたけど、たいていはカッコいい、と言ってくれた。  ただ、一人に、そのブローチくれない?としつこく言われたのには、困った。
 二組の、須賀高志だった。タカシとはクラスは違うけど、必修クラブが同じ美術で、ふだんからよく遊ぶ。  二人とも絵を描くのが好きだから、話も合うんだ。でも、いくら仲良しの友達が相手でも、このブローチだけは駄目だと思った。  母さんに悪いし、何より僕自身が気に入っている。
「じゃあ、今日だけちょっと貸してくれない?ミツバチの絵を描くのに、丁度いいモデルが欲しかったんだ」
 僕は、ぴんと、きた。卒業製作だ。
 今年の僕ら六年生は、卒業製作に寄せ書きを作ることになっている。  壁に張られた大きな紙に、将来の夢や中学でやりたいことなどを書き入れて一つの絵にする。  僕ら一組は花壇、二組はミツバチの巣、三組は星空がそれぞれのテーマだった。
 それにクラスの仲間が、それぞれ花や、六角形の巣や、流れ星の中に一人ひとこと書き入れるというわけ。  そして背景の絵は、三組担任で美術クラブ顧問の笹野先生が、だいたいの構図を決めた。  そして絵が得意な生徒が一人か二人、代表でそれを描く。その一組代表が僕で、二組がタカシだった。
「巣の周りに、花や飛んでるミツバチを描くつもりなんだ。図鑑を見ながら描いてるけど、モデルがあった方が描きやすいから。 ね、貸してよ。用が済んだらすぐ返すからさ」
 僕は正直、ちょっと迷った。何しろ昨日もらったばっかりなんだから。  だけど絵を描く大変さはお互いさまでよく分かるし、けちだと思われるのも嫌だった。
「いいよ。でも今日中に返せよな」
「今日中?でもリョータも今日は残って絵を描くもんな。なるべく早く描いて返すよ」

タカシの言ったとおり、僕も残って放課後は絵を描いていた。
 でも正直、うまくいかなかった。
 クラスのみんながメッセージを入れる花は、笹野先生が型紙を作って、同じ形を並べてる。その周りに僕はパンジーを描いた。  それは何とかうまく描けたと思う。
 でも、空は思い通りいかなかった。もともと僕は、空を描くのは好きなんだ。  でも、僕の得意なのは鉛筆画で、空を一面に塗ったところを、ねりゴムっていう伸ばしたり、尖らせたり出来る消しゴムで、  あるところは薄く、あるところははっきり消して、いかにも雲らしくするのが好きだった。  うまくいくと、モノクロの写真みたいにリアルになる。
 でも卒業製作の絵は色をつけるし、紙も僕の好みより目があらかった。  水彩紙、という紙の一種で、模造紙より豪華だけど、僕はもっと目の細かいすべすべした紙が好きだったから、  ちっとも嬉しくなかった。
 でも、色をつけるのが得意なタカシは、『水の吸いがとってもよくて、色も鮮やかに出るんだ』って喜んでたっけ。  それを考えると何だかイライラしてきた。
 ますます悪くなりそうなので、取りあえず道具を少し片付けて自分の席で考え込んでいると、当のタカシが教室に入ってきた。
「イヤー、うまくいったよリョータ。やっぱモデルあると違うね。感謝、感謝」
 こいつすでにオヤジか。とぼけた声に僕のイライラは頂点に達した。
 僕の機嫌が悪いのを見て、ちょっと不安になったらしい。タカシは、ありがとう、ここに置くよ、と小さな声で言って帰った。
 けど、僕はそっちを見もしなかった。
 そうして、今日はこのまま切り上げて帰ろうかな、と思った時だった。
「ちょっといいかな、森村君」
 見ると担任の竹内美津子先生だった。
「卒業製作してるとこ悪いんだけど、ほんの五分か十分、教室貸してくれないかな。 何だか雲行きが怪しくなったんで、早めにソフトの練習切り上げようと思って」
 竹内先生は地域のソフトボールクラブのコーチをしている。メンバーのほとんどはウチの学校の高学年の女子だし、  更衣室がない時は、前にもこの教室を使ったことがあった。
「急で本当に悪いんだけど。乗ってたとこだった?」
「全然です。もう帰ろうかと思ってたし」
「じゃ、片付け手伝うから先に帰る?雨降りそうだし」
「いや、先使って下さい。僕、そのあいだ筆とか洗ってますから」
 慌てて教室を出たのは、大勢の女子たちと顔を合わせたくなかったからだった。
 だけど戻るのがちょっと早かったらしく、二人の女の子と廊下ですれ違った。
「ねぇ、先生に言わなくてよかったかな」
「わざわざ、いいんじゃない?それにあの場所って、いかにもぴったりだったじゃない」
 そんなことを言いながら、くすくす笑って通り過ぎていった。
 僕は肩をすくめて、急いで教室に戻った。
 片付けをして、帰りの用意をしているうちに、ふと、僕は気付いてハッとした。
 タカシが机の上に置いてったはずの、ミツバチのブローチがない!
 慌てて机の下を見たけど、やっぱりない。
一瞬、ソフトの女の子の誰かが持って行ったのか、と思ったけど、今朝のクラスの女子の反応を思い出して、それはない、と思った。
 そして、次に思い付いたのは、タカシがブローチを返すところを実際は僕は見ていないこと、  それにあれをタカシがとても欲しがっていたこと、だった。
 僕は急いで校庭を出た。学校内では携帯を使ってはいけないきまりだからだ。
 タカシにかけると、すぐつながった。
「なあ、あのブローチどうした?」
 いきなり僕がそう言ったので、タカシは驚いたみたいだった。
「どうしたって、返したじゃん」
「それがどこ探しても無いんだよ。もしかしてお前が持ってるんじゃないかと思って」
「はあ?」
 最初は戸惑っているだけだったタカシの声が、だんだん尖ってきた。
「何それ、おれを疑っているわけ?ジョーダンじゃないよ、ちゃんと返したからな!
だいたいちゃんと受け取りもしないで、態度悪かったのそっちじゃん。どうかしてるよ」
 そう言って、タカシは電話を切った。

「その後は、急に降り出した雨のせいで、ここに逃げ込んできたわけ」
 僕がそう言って話し終わると、純はちょっと考え込んだ。
 けれどすぐに、僕の方をまっすぐ見て、
「今でも、タカシ君がブローチを持って行ったんだと思ってる?」
「……本気で疑ってはいないけど。今から思うと、自分がうまく絵が描けないもやもやをぶつけちゃった気もするし。 でも、タカシじゃないとしたら、誰がブローチ持って行ったわけ?やっぱり女の子の誰か?」
 すると純はにっこりして、こう言った。
「それについては、ちょっと考えがあるんだ。取りあえず学校に戻らない?雨もだいぶ小降りになってきたよ」

 下校時間が迫っていたので、僕たちは小走りに廊下を急いだ。
 なのに教室に入るなり、純は壁に貼られた卒業製作の絵に、のんきに目を走らせ始めた。
「そんなのはいいから」
 できの悪い絵を見られる恥ずかしさで、僕が乱暴に言うと、純は黙って指差した。  僕がそこに目をやると、その、パンジーの絵の真ん中に、ミツバチのブローチが留めてあった。
「あの場所って、いかにもぴったりだったじゃない」
 純が、すれ違ったあの時の、女の子の言葉を繰り返した。
「君が急いで教室を出た時これが床に落ちて、それを女の子が拾ってここい留めたんだよ」
 こんなところにあったのか。ほっとしたけど、タカシを疑ったのを思い出すと恥ずかしかった。  照れ隠しに、僕は怒った声で言った。
「こんなとこに留めちゃって。絵に穴が開いちゃったじゃん」
「うん。でも、とても花がよく描けてるから、ついミツバチをとまらせたくなったんだよ」
 相変わらずにっこりとして、純は言った。
 



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