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みつばちの童話と絵本のコンクール


「退治、蜂蜜なめなめ妖怪」
一般の部 佳作
(埼玉県)

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   次の日、私は早速家老を呼びつけて門前に立て札を立てさせた。  内容はもちろん、年貢制度の廃止と妖怪退治の協力を要請するものだ。  町の者は盆と正月が一辺にきた如く喜んでいますよ、と爺が嬉しそうに言った。  知らせが届けば、蜂飼い村の者もきっと安心することだろう。私もなんだかほっとした。
 妖怪退治決行の晩。私の予想をはるかに上回る人数が助太刀に来てくれた。
「今宵はこんなに大勢の者が私に力を貸してくれるとは思ってもいなかった。なんとも嬉しい限りだ。 ともに妖怪からみんなの蜂蜜を守ろうではないか。」
 私のあいさつが終わらぬうちに、男衆からなんと、と一声。女衆からまあ、と声があがった。御用人とひろであった。
「あなた様が上様とは知らずの無礼、お許しくだせえまし!」
 御用人は冷や汗まじりに言った。
「本当に、嫌な殿様だよ!あたいのことだますなんてさ!」
 ひろも顔を赤らめて怒っている。
「悪かった、悪かった。だが、お主らのお陰で私はこうしてみんなと仲良くなることができたのだ。双方には感謝している。」
 私は二人の手をとってお礼を言った。そのときひろが、おもむろに私の腕を引き寄せて妖怪を退治する作戦はあるのか、  と耳打ちした。私は、ないと答えた。みんなで追っかけ回せばいい、と私は思っていた。
「あたいにいい考えがあるんだよ。」
 ひろの考えとは、妖怪を大蔵へおびき入れみんなでその蔵を取り囲んでしまおうというものだった。
「蜜蜂はね、みんなこういうふうにして一回りも二回りも大きな敵と戦うんだよ。」
 きっと上手くいくよ、とひろは目配せした。かくしてひろの作戦が決行された。  大蔵の錠を開けておき、みんなは横丁の路地に身を潜め、息を殺してそのときを待った。
 そしてとうとう酉の刻、あの妖怪が姿を現したのである。妖怪は何も知らずにいそいそ蔵へ入っていった。  それを確認した私は頃合いを見計らって号令をかけた。
「皆の者今だ、囲め!」
 みんなが一斉にわあっと蔵の入り口をふさいだ。上手くいきそうだ。私はひろに目配せを返し、  よしと気合を入れ直すと名刀の柄に手をかけ、ちょうちん片手に蔵に突入した。
「私はこの町の城主だ。私にだまって町の蜂蜜を盗み食うとは許せぬ行為。ひっとらえて打ち首の刑に処すぞ。」
 物音のする方へ私が明かりを差し出すと、蜜つぼのなかから上げた妖怪の驚いた顔が浮かび上がった。私はその顔をじっくり見た。
 てっぺんだけを剃ったトンスラ頭、大きな目玉に高いかぎっ鼻、蜜のしたたる口もとを覆うひげ、せんすのような波打つ白えりがついた黒装束…これは。
 じっくり見てがっかりした。こいつは妖怪ではなくナンバン人のバテレンだったのだ。
 妖…いやナンバン人はしきりに私に話しかけている。何を言ってるのかさっぱり分からない。  通訳ができたらひろにどんなにか尊敬してもらえただろう。こんなことなら爺の言う通り、  もっとまじめに語学に励んでおればよかった、と今更ながら思うがもう遅い。  とにかく外に出て来いと手招きするとおとなしくついて来た。
 みんなの驚いたこと!
「わ、若様。その妖怪は…」
 まず爺が腰を抜かした。
「爺、よく見ろ。こいつは妖怪などではない。ナンバン人のバテレンだ。」
「ヤー!左様で。ミナサンハジメマシテ。私ヤーピーでゴザル。蘭国から参ったヨ。」
「なんだお主、日本語が話せるなら初めから話したらよかろう。」
「私ヤーパンもハチミツもスキなもんデスから、チョット毎日ハチミツ盗んで御免ください。 実は私、船がコワレテ帰レなくなてシマータデス。何か食べ物下サルト有難きシアワセでゴザル。」
 難破したというわけだ。妖怪の正体があわれなナンバン人だと知った私たちはヤーピーをしばらくこの町においてやることにした。  ヤーピーは至極喜んで言った。
「ミナサンカタジケナイね。私、仕返しにハチミツカステーラの作り方教えチャウね。」
「仕返しではなくお返しであろう。無礼な口を利く異国人じゃ。」
 爺は顔をしかめた。
「爺、まあそんなに怒るな。私はこんなに日本語を話すナンバン人には会ったことがない。 いいかげんだが面白いやつではないか。なあ、ひろ。」
 私はヤーピーにものめずらしそうな視線を向けるひろの肩をとん、とたたいた。  以前、ナンバン娘を嫁にもらうと言ったが、ここで撤回しておこう。私は、少し前からひろを嫁に迎えようと決心していたのだ。  ひろとならばこの町をよくしていける、そんな気がしている。ひろという小さな蜜蜂は、私に協力し合うことを教え、  そして町に幸せを実らせたのである。私は時期がきたら彼女にすべて打ち明けるつもりだ。
 私のところに嫁にきて、そしてこの町の女王蜂になってくれないか、と。
 その後のヤーピーといえば、船が直っても帰るに帰れなくなっていた。  彼がこしらえた「妖怪ハチミツカステーラ」が山向こうにまで大評判になり、いつの日か町の名物になってしまったからである。  まあヤーピーも儲けは上々、結構乗り気で商売に励んでいるようだから、めでたしめでたし、ということにしておこうじゃないか。

※この作品は、時代背景による言葉を使用している箇所があります。
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