「あぁー。今日はあちこち久しぶりに飛び回って疲れたなぁ。」
アパートに帰りゴロゴロしながら先輩ミツバチは言いました。
「そうですねー。明日はずっと一カ所にとどまってアイスクリームでも食べながらやりましょうよ。絶対に社長にはばれませんって。」
うちわで扇ぎながら新米ミツバチは言いました。
「お、それいいな。」
先輩ミツバチは言ったがやはりいつものこと。
「ばかもの!そんなことを言う元気があるなら先輩にぶんぶんビールでも買ってこい!」
「まったく、ハチ使いが荒いなぁ。」
「何か言ったか?」
「いいえ、空耳ではありませんか?」
しぶしぶ、新米ミツバチはコンバチエンスへ向かいました。
夜の街は電気もないのに明るいのです。
なぜなら、人間達の街の光がここまで届いているからです。
新米ミツバチは今日、人間の街に行ったばかりです。昼の街にね。しかし……
やはり、好奇心には勝てなかったみたいです。
「夜の街ってどんな感じなのだろう。」
そう言ってフラフラッとコンバチエンスを通り過ぎ人間の街に向かいました。
そこは、いろいろな光に満ちた新米ミツバチにとって夢のような世界でした。
赤や青、黄色や緑、白などたくさんの色の光がついては消え、ついては消えの繰り返し。
人も大勢、時々、叫び声も聞こえました。
しかし、新米ミツバチは目をこすりながら他のところへ飛んでいきました。きっとまぶしかったのでしょうね。
行った先には大きな病院がありました。
そして一つの窓が開いていました。
新米ミツバチはまたもやフラフラッと窓の中へ入っていきました。
そこには、一人の老婆と枯れた花が入っている花瓶しかない殺風景な病室でした。
しかも、病室のドアは閉まっていて見舞客なんていません。
「なーんだ、こんな物しかないのか。」
眠っている老婆を見つめながら言い放ちました。
「花瓶の花の手入れもしてないのか?ひどいなぁ。お花がかわいそうだ。」
人間のいいかげんさに腹を立てた新米ミツバチは病院を出てハチミツタウンに帰りました。
「あ。いけない。」
先輩ミツバチに頼まれたビールのことをすっかり忘れていたのです。でも、もうアパートの部屋の前。
「よし。売り切れていたってことにしよう。」
「ガチャッ。」
ドアを開け先輩ミツバチを見ると、すでに大いびき。
昼間の件で本当に疲れていたのですね。新米ミツバチはそっと先輩ミツバチに毛布を掛け自分も眠りました。
「リーン。リーン。」
ベルが鳴り、いつもの騒がしい朝がやってきました。
ドタバタしながら二匹は昨日と同じように会社へ向かいました。
「おはよう。最近は八時出席率がいいね。」
社内の廊下で社長と出会いました。
「はい、いつまでも遅刻していられません。」
先輩ミツバチがキリッとして言いました。
「うむ。そう言えば、昨日のレポートなかなか良かったぞ。君の部下はユニークなやつだな。ハハハハハ。そこで、今日も君達に任せるよ。すぐ出発してくれ。」
そう言って社長ミツバチは去っていきました。
「やったぞ、新米。社長からほめの言葉だ。」
うれしそうに飛び上がって先輩ミツバチは言いました。
「やりましたね、これで私も大出世だ!」
同じく新米ミツバチも飛び上がりました。
「そんな簡単にいくワケがないだろ!」
先輩ミツバチが言いました。
そう言って二匹は人間の街に向かいました。
二匹がぶらぶらしていると、突然雨が降ってきました。
「うわぁ。雨だ。」
二匹はあわてて近くの建物の中に避難しました。たかが雨でも、小さなミツバチにとって雨はとても危険な物なのです。
「あれれ?天気予報では一日中晴れマークがついていたのに。」
新米ミツバチがぼやくと。
「あのなぁ。これは夕立といって……。」
先輩ミツバチが説明し始めると……。
「ガチャッ。」
ドアが開く音が聞こえました。
「まずい、おい、隠れるぞ。」
先輩ミツバチが言い、二匹は花瓶の陰に隠れました。
「あれ?ここは……。」
新米ミツバチが言ったこことは、昨晩おとずれた大きな病院のあの部屋でした。部屋には寝ている老婆一人だけだったので今まで気づかなかったのです。
しかし、今は二人の大人と一人の子どもがお見舞いに来ています。
「こんにちは、おばあちゃん。何かかわったことはなかった?」
女の人の声です。
「あぁ、このあいだ窓の外に大きな虹が出てね、それで……。」
「そうですか、その話ならこの前も聞きましたよ。」
女の人が話を流しました。
「そうかい。三人とも体には気をつけるのだよ。戦争中は……。」
「その話は何回も聞いたよ、おふくろ。今日は着替えを持ってきた。じゃぁ、オレは仕事が忙しいから帰るな。レン、お前も帰るか?」 男の人が尋ねました。
「あ、ボクは……庭の花を持ってきたんだ。」
レンと呼ばれる男の子が花を持って言うと、女の人があわてて言いました。
「あ、大変。レン、もう行かなくちゃ、塾に遅れちゃうわ。」
レンの持っていた花を、乱暴に花瓶につっこんだので、一、二本は床に散らばりました。
「あぁあ、ありがとうも言えなかった。私は動けないし花瓶に花はさせないのになぁ。」
さみしそうに、おばあちゃんが言いました。
「ちょっと冷たすぎますよ。このおばあちゃんは昨日もここに一人っきりだったのに。」
新米ミツバチはぷりぷりして言いました。
「昨日?こんなとこに来たかな?まぁ、それはいいとして。人間ってのはそういう動物さ、自分の都合しか考えなくて相手のことなんてこれっぽっちも思っちゃいねぇ。」
先輩ミツバチは腕を組みながら言いました。
「よいしょ。」
新米ミツバチは床に落ちていた花を持ち上げました。
「おい、何やっている。そんなことしたら見つかるぞ、人間は虫が嫌いだからな。」
「大丈夫ですよ。このおばあちゃん今は寝ています。」
そう言って、新米ミツバチは花を花瓶へと運び、いけました。ついでに、枯れていた花も取り除きました。
「このおばあちゃん、動けないから手入れが出来なかったのか。」
新米ミツバチは昨晩の怒りを恥じました。
「おい、雨もやんだし、ここに長居は無用だ。いくぞ。」
先輩に言われ二匹は病院を後にしました。
夕方、昨日と同じように会社にもどり、アパートに帰り眠りました。違う点と言えば今夜は外に出かけなかったことです。
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