| 晴男は、おどろきました。父さんは若い頃、こんな事を思っていたんだ。ハチミツを作る仕事ってすごい仕事なんだと思いました。
その時、父さんがつけ加えて言いました。
「さっきのハチミツの話だけどな。そこからもらった教訓が父さんにはある。自分がなんでもないと思っていた事の裏には、すごい事実があるんだってね。
それを知った時は、びっくりするよ。けどその事実を知ることによって自分の今までの考え方や生活の仕方が変わったりするんだ。」
父さんは、その頃のことを思いだして、なつかしそうな目をして言いました。
気持ちのいい朝でした。晴男は、すっきりおきました。目ざまし時計も鳴る前におきた晴男は、ラジオ体操におくれずに行きました。朝ごはんも三杯もおかわりをしました。つけものをバリバリ食べていると、ピンポーンと家のチャイムが鳴りました。
「はーい。どなたさんですか。」
お母さんがすぐもどってきました。
「晴男、純太郎君がきとるよ。こんな朝早くから何なんじゃろうなぁ。」
晴男は、牛乳をゴクッと飲んで玄関へ行きました。見ると、汗でベタベタの純太郎が立っていました。
「どうしたんだよ。こんな朝早くから。」
と晴男がびっくりして言いました。
「今日、プールで最後の競争をしてほしくて来たんだ。」
純太郎は、それだけ言うと急に泣きだしました。
「どうしたんだ、純太郎。」
すると、
「実は、今日、お前と会えるのが最後なんだ。遠い所にひっこしするんだよ。だから最後に晴男ともう一回泳ぎたくて。」
晴男は、一瞬、夢を見ているのかと思いました。いつも一緒に遊んでいた純太郎がいなくなるなんて。そんな、ひどいじゃないか。―――――――。
何も言えない晴男を見て、純太郎はつぶやきました。
「ひっこしが決まってから、ずぅーっと泳ぐ練習をしていたんだ。」
晴男は、はっとしました。父さんが言ってた事だ。純太郎は、僕が知らない間に努力してたんだ。だから、前、競争した時いつもと違ったんだな。
晴男は、涙がでてきそうになりました。
2人がプールにつくと、あのおじいさんが入り口のそうじをしていました。
「よっ。お二人さん。久しぶりじゃな。」
純太郎は、
「あのおじいさんの顔も見れなくなるんだ。」
と、ポツンと言いました。2人は、飛びこみ台に立ちました。
「これが最後の競争だ。わざとゆっくり泳ぐなよ。」
そう言って、なぜか純太郎は、ほほえんでいます。
「よーい、どん」
晴男は、今までで一番しんけんに泳ぎました。これでもう、一生、純太郎と泳げないかもしれない。だから、精一杯泳ぐんだ。
バシャッ。すぐ晴男が顔を上げてみると、少したって純太郎が顔を上げました。
「晴男、やっぱりお前には勝てないな。」
すると、おじいさんが、
「今日も、晴男が勝ったのか。でも、今日の泳ぎは、今までの競争のなかで二人とも一番速かったぞ。」
とニカッと笑って言いました。そして、二人も顔を見合わせてニカッと笑いました。
プールの入り口の前に、ひっこしのトラックがとまっています。純太郎は言いました。
「今日は、アイスおごれなくてごめんな。またいつか会った時、大っきいアイスおごるけん。」
晴男も言いました。
「おう。その時を待っとるよ。」
二人は、がっちりとあくしゅをしました。
「そんじゃぁな。」
純太郎が乗ったトラックのエンジンがかかりました。晴男は、言いました。
「純太郎。今度会うまでに、もっと速く泳げるように練習しとけよ。」
「お前だって、今度競争する時は、おれに負けないようにしろよ。」
トラックは、力強く走りだしました。
「ありがとう、純太郎。またなぁ。」
晴男の声が、青空の下できらきらとひびいています。
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