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みつばちの童話と絵本のコンクール


「ありがとうの花」 子どもの部 佳作  平山 桂子(愛媛県)

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 バチのハチミツ一滴一滴が、ノラを少しずつ元気にしていきました。ノラの疲れきった体や心が不思議な元気につつまれてきます。
「ありがとう。僕はもう大丈夫。バチのおかげですっかりよくなったよ。」
 ノラはそう言ってまた、立ち上がりました。二匹の旅はまた始まりました。
 いつものように地図を見ながら森の中を進んでいるときです。ふと気がつくとバチの姿が見あたりません。おかしいなと思ったノラは、さっき通 った木の下へと戻ってみました。
 バチの姿はどこにも見えません。ノラはだんだん心配になってきました。木の下をうろうろと行ったり来たりするノラ。
 と、突然
「ノラ、ここだよ!助けて。」
 悲し気なバチの小さな声がノラの耳に届きました。なんということでしょう、バチはこの木の上のクモの巣にひっかかっていたのです。大きなクモがかわいそうなバチにむかって少しずつ近づいています。ノラはクモにあわてて言いました。
「お願い!助けて下さい。バチは僕の友達なんです。」
 ノラは大声で叫びました。
 クモは黙っているだけです。
「大切な友達なんです!お願い。」
 するとクモが言いました。
「では、お前はこの子のかわりに私に命をくれるのかい?」クモはにやりと笑っていいました。
 ノラはしっかりと大きな声で言いました。
「ああいいとも、そのかわりバチを食べないで。お願いです。」
 クモはバチからはなれました。
「ハチ……お前は良い友達がいてよかったな……。」
 バチはどっと涙があふれてきました。木の下に立っている二匹にむかってクモがボソリといいました。
「お前達は丘の上に行きたいんだろう?この道をまっすぐ進めば森をぬけられる。」
 そういうと、クモはまた、するすると木の上へ上がっていきました。
「ありがとう、クモさん。」
「クモさん、ありがとう。」
 二匹は、クモの教えてくれた通りまっすぐ道を進んでいきました。しばらくするとあの深い森が左右に開け、青い空が見えてきました。
「あっ、丘が見える!」
 バチが叫びます。
 しかし、ほっとしたのもつかの間、たどりついた二匹は驚きました。
 花は一本しか咲いていないのです。これでは、幸せの花か勇気の花か分かりません。困った二匹は一本の花の前で座りこみました。
 二匹がため息をついていると、突然、
「どうしたんだい?そんな暗い顔して。」
 と、花がしゃべり出したのです。
 二匹はびっくりして、花の中をのぞきこみました。
 すると、アリがひょこっと顔を出しました。
「君はこの花の事をよく知っているの?」
 ノラは言います。
「もちろんさ。僕はこの花がこんな小さい芽の頃からずっと見守ってきたんだよ。」
 アリは自信満々で答えました。
「じゃあ、この花は幸せの花なの?勇気の花なの?」
 バチがせかすように言います。
 すると、アリは
「うーん。幸せの花って確か呼ばれていたかな、でも、誰かが勇気の花とも呼んでいたなあ。」
 思わず声をそろえて、
「本当はどっちなの?」
 と聞きました。
 アリはゆっくりと優しい声でこういいました。
「まぁ、本当はこの花には名前なんてないんだよ。名前のない花さ。」
 ノラとバチはキョトンとして、顔を見合わせました。
 ああ、何ということでしょう。今まで一生懸命探していた二本の花はもともと一本の花だったのです。二匹は考えこんでしまいました。ノラはおばあちゃんにこの花をプレゼントしたい、でもバチも友達がいっぱいほしいのです。
 しばらく黙った後、しゃんと顔を上げたノラはバチの顔をみながら静かだけれどもはっきりした声で、
「僕はいらないよ。」
 といいました。バチはこの言葉にびっくりしました。バチはたまらなくこの花が欲しいのです。それはノラも同じだということをバチは知っていました。ですから、ノラがそんなことをいうなんて思ってもみなかったのです。
 バチは、
「ありがとう。でも……僕はノラがいてくれたからここまで来れたんだよ。この花はノラがもらうべきだよ。」
 バチは、ポロポロと泣きながら言いました。
 きれいなピンク色の花は、二匹の方をずっとみているように見えます。
 結局、ノラとバチは名もない花をつみとらないで帰ることにしました。あれだけ欲しかった花なのに、ちっとも残念な気がしません。
 二匹の心はとってもあたたかかったからです。おばあちゃんにあげる花は、どの花だっていいのです。相手を思う心がこもっていればその人を幸せな気分にできるのです。思いを伝えるだけで友達だっていっぱいできるのです。二匹はそれがわかりました。
 二匹は森をぬけ、橋を渡り、あぜ道を通りました。わかれ道、もう夕方です。
 ノラは、
「早く帰らなくちゃ、おばあちゃんが心配してる……。ありがとう、バチがいてくれたからここまでがんばれたんだ。」
「僕だって……ありがとう。」
 バチもにっこり笑いました。二匹は自分の家へ帰って行きます。
 それを見ていた鳥達は、南の森の仲間達に話しました。鳥達は東の森、西の森、最後に北の森まで二匹の話を広めました。
「幸せの花、勇気の花……ありがとうの花……。」
 鳥はそうつぶやきながら飛び回っています。
 それ以来、丘の上のあの花は「ありがとうの花」とも呼ばれるようになりました。


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