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みつばちの童話と絵本のコンクール


「プロジェクトBee」 一般の部 佳作 木次  洋子(愛知県)

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 南との試合を明日にひかえて、その日は金曜日ではあったが特別に練習をすることになった。
 練習は、相変わらず基礎的なことばかり。明日が試合だからとて、特別なことをするわけではなかった。ただ、いつもは最後にグラウンドを十周するところを、今日は五周に減っただけだ。
 みんなが並んでグラウンドを走り始めて二周回ったところで、浩太が突然言い出した。
「俺、もう我慢できん。監督に言ってくるわ」
「言うって、何を!」
 あわてて、佑介が浩太の腕をつかんだ。
「こんな走ってばっかりで、南には勝てん。もっと、具体的なことを教えてくれなきゃ、意味ないやん」
 浩太は佑介の手を振り払って、監督のところへ走って行った。佑介があわてて浩太をおいかけたが、チーム一の浩太には到底追いつけない。 その佑介の後を、なんだなんだとみんなも追いかけてきた。
「監督!」
 浩太が声をかけると、野良猫を触っていた監督がようやく皆に気づいた。
「おや、もう五周終わったのかな」
「監督、あの、その、ちょっと、話が……」
「話?何かな。明日のことかな」
「あの、あの、佑介、言えよ」
 浩太は肝心なところで、佑介の背中を押して後ろにひっこんでしまった。監督は、佑介の顔を不思議そうに見ている。佑介は思い切ってたずねた。
「監督、どうしていつも基礎練習ばかりで、もっと攻撃面での練習をさせてくれないんですか。基礎が大事なのは分かるけど、もう少し、具体的な練習をしないと、南には勝てないんじゃないですか。……と、みんな、思っているんですが ……」
 佑介の声が、だんだん小さくなる。みんなは、息をのんで監督の返事を待っている。監督はそんなみんなをやさしい顔で見回してから、うんと一つ大きくうなずいた。
「南に勝ちたいんだな、みんな」
「も、もちろんです」
 浩太が答えた。みんなもうなずいた。
「みんな、ミツバチは知っとるな」
「ミツバチ?」
 武が、すっとんきょうな声を出した。
「そう、あのぶんぶん飛んでいるミツバチ。そのミツバチの巣を、時々大きな蜂が襲ってくる」
「大きな蜂って、クマバチですか」
「そうかもしれん」
「スズメバチですか」
「そうかもしれん。その大きな蜂はな、ミツバチの巣に一匹でやってきて、巣の中の幼虫を食べてしまう。または、持ってかえって、自分とこの幼虫のえさにしてしまう。たった一匹で平気でやってくるなんて、ミツバチを相当ばかにしているんだろう。そうすると、さすがのミツバチも、黙ってはいない。かといって、 一対一の戦いをしても勝てるはずはない。どうすると思う?」
 みんな、ぽかんと監督の話を聞いている。サッカーとミツバチに何の関係があるんや?
「ミツバチはな、その大きな蜂を大勢で囲んでしまうんだ。一番最初にその蜂にとりついたやつは、食われてしまうかもしれん。しかし、どんどんどんどん、その蜂の周りを囲っていく。そのうちに、大きなミツバチのボールができる。そして、みんなでぶんぶん興奮して、どんどんそのボールの中の温度を上げていく。すると、その大きな蜂はその熱で死んでしまう」
 ん?っと、監督はみんなの顔を見回した。
「だいたい、そういうことや。もう何十年も前に見たテレビの番組でやっていたから、ちょっと違うところもあるかもしれん、うん」
 そして、監督はおもむろに時計を見ると、
「では、明日は遅れないように集合するんだよ。佑介、片付けよろしくな。バスが来るから」
 そう言うと、みんなを残して帰っていった。
 みんなは、なんとなく毒気を抜かれた感じで、グラウンドを整備し終わると、三々五々帰っていった。
 佑介は、その日ずっと繰り返し繰り返し監督の話を思い返していた。ミツバチ、ミツバチか……。最近もやもやとしていた佑介の心の中が、だんだんと晴れてくるのが自分でも分かった。
 次の日は、これ以上ないというほどの快晴で、サッカーの試合にはちょっと暑すぎるほどだった。佑介が試合会場に着くと、すでに南の五番の姿がみえた。しかし、いつものように情けない気持ちはもうなかった。
 両チームとも、試合前の練習を終えていよいよ始まるというとき、佑介たちは監督の周りに集まった。
「今日は大変暑くなりそうなので、各自水分補給をしっかりすること。けがのないように」
 監督はいつものようににこにこしてこれだけ言うと、さっさとベンチに戻ってしまった。
「今日も作戦なしか」
 浩太が言ったのを聞いて、佑介はみんなを呼び止めた。
「ちょっと、みんな聞いて。昨日の監督の話について、俺、考えたんだ」
 佑介が海斗の顔を見ると、海斗はにやっと笑った。
「最初、サッカーとミツバチ、何の関係があるんだろうって、俺も思った。でも、ずっと考えていたら、なんとなく分かったような気がする。俺たちはミツバチで、五番がクマバチかスズメバチか知らんが、大きな蜂なんや。俺たち、なめられとるで。あの五番一匹に、いや、一人にやられて」
「でも、しょうがないやん。実力の差は歴然」
「だから!だから、監督はミツバチの話したんとちがうか。あの五番に一人であたっても、だめなんだ。みんなでつぶすんや。一人がだめなら次、そいつがだめなら次、また次。一人であたらんと、何人かであたってつぶすんや。囲んでしまえっていうことや。抜かれたら追いかける。どこまでもねばるんや」
「なんか、疲れそうだなぁ」
 武が、ため息まじりに言った。
「走るのは、得意じゃないか」
 海斗が言うと、
「走るのだけはね。だって、練習でどれだけ走らされているか」
 浩太も、やっと分かったようだった。
「だから、今日は勝つってことも大切だけど、とにかくあの五番に好き勝手させないこと。みんなで追いかけて追いかけて、暑さでへろへろにさせてやろうぜ」
「ミツバチ作戦やな」
 広志が言うと、みんながオーと声を上げた。
 試合が始まった。今日はいつもと違ってみんなの目的が一つなので、動きはすこぶるいい。しかし、だからと言ってすぐに結果に現れるわけではない。 開始後すぐに、五番に一点を入れられてしまった。
「ドンマイ、ドンマイ。これからだ」
 佑介がみんなに声をかけた。みんな、がっくりした様子はない。よく集中している。こんなことは、今までにないことだ。
 そのうちに、徐々にミツバチ作戦の成果が現れてきた。五番がボールを持てなくなってきた。持っても、すぐに囲まれてボールを取られてしまう。やがて、南は作戦を変えたようだ。五番以外の選手で攻めようとしてくるが、そうなると緑にもチャンスができてくる。基礎をみっちりやっているおかげで、おもしろいようにパスがつながって、得点のチャンスが何度もめぐってくるようになった。
「いいぞ、この調子だ。向こうはだいぶばててきてるから、後半は絶対チャンスがくる」
 ハーフタイムで、佑介はみんなに言った。
「相手もばててるけど、こっちもばててきてるで」
 武を指差して、浩太がささやいた。武は赤い顔をして、座り込んでいる。
「どうや、もう無理か。今日は特別暑いし。監督に変えてもらうか」
 佑介が武に声をかけると、武はちらりと監督の顔を見た。監督は、相変わらずのんびりとうちわを使っている。
「いや、まだ。もう少しやらせて。無理だと思ったら、佑介から監督に言って」
 武の言葉に、佑介はうなずいた。海斗と広志と浩太も、顔を見合わせて笑った。
 後半も、緑は走りに走った。みんな、心臓が口から飛び出そうになるまで走った。しかし、結果 は二対ゼロ。結局、南から一点をもぎとることはできなかった。
 佑介が南の監督に挨拶に行くと、
「いやあ、相変わらずよく走るね。見て、うちの五番。もう足がつっちゃってるよ。技に走ると、こういうところで差が出るよ。もう少し緑をみならって、走らせることにしたよ」
 と言われた。
 みんなのところに帰ると、いつものようにうなだれているものはない。みんな、疲れてはいるが、せいせいした顔をしている。
「よう走ったなあ、みんな。それに、みんながまんべんなくボールを触っていた。いい試合だった。さぼっている者は、誰もいなかった」
 珍しく、監督が誉めてくれた。みんなは、なんとなく照れくさそうな顔をした。
「みんな、楽しそうだった。サッカーは楽しくなくちゃいかん。ワンマンチームでは、他のメンバーは全然楽しくない。その一人の選手のためにやっているようなものだからだ。 味方にパスをする、パスを受ける、見方のミスをフォローする、自分のミスをフォローしてもらう。そうやって、チームになっていくんだ。 味方の取りやすいパスを出す、自分がもらいやすい位置に動く。あきらめずにボールを追って走る。みんな、サッカーの基本だ。みんなは、その基本をしっかりやっているから、いつかそれがプレーに出てくる」
 今日、試合をしながらなんとなく分かりかかっていたことが、監督の言葉ですっかり分かった気がした。みんなは、もうこれから練習のことで監督に文句なんか言わなくなるだろう。
 そのとき、監督が誰かに手を上げた。みんながその方を振り返ると、にこにこと笑いながらこちらに歩いてくる人がいる。みんな、すぐに監督の奥さんだと分かった。
「奥さん、退院したんですか?」
 佑介がたずねると、
「ああ。今日。そのまま来たらしい。私より、サッカー好きでね」
 監督は嬉しそうに言った。こんな嬉しそうな監督の顔を見るのは、初めてだった。
「みんな、いい試合でしたね。びっくりしちゃった!監督の話と全然違う!」
「おいおい」
 監督が慌てて言ったので、みんな大笑いになった。
「あちらに、差し入れがあるの。みなさん、どうぞ」
 わあっと歓声を上げて、みんなは走り出した。
「武のやつ、まだ走れるじゃないか」
 監督のあきれた声を背に、佑介も走り出した。今度は試合に勝って、監督のあの嬉しそうな顔をもう一度見たいと、心から思った。




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