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みつばちの童話と絵本のコンクール


「だじゃれ使い師」
一般の部 佳作
五月 たぬき (兵庫県)


 ぼくの名前は五味繁太(はんた)という。いっぱい葉っぱをつけた太い木のように元気になれよ、と付けてもらった名前だから、ちょっと変な気もするけど、ぼく的には結構気にいってる。ただ略して「ごはん」なんて呼ぶやつが時々いるので、それは格好悪いし、やめてほしいなあ、と思うくらいだ。
 今日、ぼくは大失敗をしてしまった。穴の中へ落っこちてしまったのだ。
 だいたいが腹のたつ話で、学校からかえるなり僕はお母さんに「おばあちゃんちにお使いに行ってきて」て言われた、それがすべてのはじまりだった。なんでもおばあちゃんから、家の片付けをしていらなくなった植木鉢が出てきたので使わないかい、という電話がかかってきたそうで、お母さんはふたつ返事でそれらをもらう約束をして、繁太を持ちにいかせます、って言ったのだった。
 今日は健ちゃんが、ヘボ追いをするからついて来たかったら来ていいよ、って言ってくれてたのに……。
 健ちゃんは六年生。この間お父さんにヘボ追いを教えてもらって、
自分だけでやってみたくなったらしい。ヘボっていうのは蜂の一種なんだが、地面の中に巣を作る。巣を見つけたら煙幕でいぶしてからその巣を掘り出して、中の幼虫を食べるんだって。巣をみつけるためにするのがヘボ追い、皮をむいたカエルを木の枝でもたててつるしておくと、肉食性のヘボが飛んできて、巣に持って帰るために小さな肉団子を作る。これをそっと横取りして小さな綿をつけてからもう一回わたしてやると、ヘボはそれを持って巣に飛んで帰る。綿を目印にそのヘボを、畑を横切り川をつっきりひたすら追いかけるんだという。
 ちょっと興味があったから付いていきたかった。それで「えー」とちょっとブーイングしてみたけれど、おこづかいあげないわよとか、今日のごはんは人参のフルコースにしようかしらとか散々脅かされ、ヘボ追いはあきらめて、僕はとぼとぼと家を出た。お母さんの「ちゃんと普通の道を通っていくのよー」という声を聞きながら。
 ここでちょっと解説すると、うちのおばあちゃんは森の向こうに住んでいる。「ちゃんと普通の道」を通るように、とお母さんが言ったのは、舗装された、森のまわりをぐるっと回る道を通っていきなさいよ、ということ。森の中の道を通っていけば早いのだけど、この森というのが昼間でもじめじめと薄暗くて、踏み分け道が一本あるのはあるけれど、最近はあんまり誰も通らないものだから、下草の生え方がたまたま薄くなっているところと見分けがつきづらい。つまり迷いやすい、ってことで、学校では「子ども一人で森の中には入らないこと」とことあるごとに言われるのだ。
 で、ぼくは親のいうことをよく聞くいい子だから、ぐるっと回り道しておばあちゃんの家に行った。おばあちゃんは僕の顔を見ると
「よし、じゃあ頑張って持って帰りな。」
と言って、大きな風呂敷に入った荷物をわたした。
「大物は植木鉢が四個だからね。あと、割り箸とかマジックインキだとかも、うちじゃいらないんで入れとくから。」
と言って、わたしゃ用事があるからと、おやつ一つくれるわけでなく僕を締め出すと、 自分もどこかに出かけていってしまった。
 ところがこの荷物を持ってみたところが重いこと重いこと。うちまで持って帰る前に腕が抜けちゃいそうだった。これ持って森をぐるっと回って帰るのかあ、何度も休まないと無理だなあ、時間かかりそう、と思ったとき、ふっと良くない考えが僕の頭に浮かんだのだった。森の中をつっきっていったら、半分くらいの時間で済むぞ、って。


 結果、いわんこっちゃない。道に迷った挙句、あっと思うまもなく足が枯草と思っていたその中に吸い込まれていった。目の前が真っ暗になったと思うと、ドシンとしりもちをついた。
「あいたたた……」
 見上げると僕の背丈の二倍半ほども高いところから、なにかを透かして入ってくるうすぼんやりと丸い光が見える。こんな深い穴がなんで出来てるのかはしらないが、ややこしいことに穴の口の上一面をからまった枯草がおおっていて、穴があるなんてちょっと見ただけではわからなかったのだ。
 出ようとしても地面まではとても手は届かない。どうしようか、どうしようもない。 ぼくはうろうろと歩き回った。薄暗いけれど結構広さもある穴で、ふちに沿って回ったら何歩くらい歩けるだろうか?十一、十二、十三……あれ?
 目がなれるまで気がつかなかった。穴の端っこに何かがいた。よく見ると、背中を丸めてうずくまっている人間のようだが……。あのちょっと、と声をかけてみたら、 そいつはゆっくりとこっちを向いた。
「あれ、五郎じゃない?」
「や、やあ五味君。」
 同じ学校の亜早稲(あわせ)五郎だった。一年生二年生のときは同じクラスだったのだが、組替えになってから、あんまり話もしてない。無口だし、結構学校休むし、 放課後遊ぼう、ってさそっても、何の用があるのかそそくさ帰ってしまうやつだから、もともとそんなに仲の良いほうでもなかったんだけど。
「なにしてんの、五郎?」
「いや、その、何ていうか。穴に落ちちゃってさ。」
「そりゃそうだろうけど。なんで僕が落ちてきたのにすぐ声かけてくれなかったの?穴になんか落ちたのがばれると恥ずかしかったから、って?別にそんな……。いつからここにいるのさ?」
「二回真っ暗になったから、ええと……おとといからかな。」
「え、そんなに?」
 驚いた。ということは昨日も今日も五郎は学校へ来てなかったんだ。でも普段から無断欠席の常習犯だと先生が言ってたから、あまり気にとめられてないのかもしれない。
「それじゃ、家の人すごく心配してるだろ?」
「……父ちゃんも母ちゃんも今出かけてるんで。」
「いや、でも……何も食べてないんだろ?お腹空いてないの?」
「なんとか食べることは食べたんだけど……」
「おやつか何か持ってたわけ?」
「いや、そういうわけでもないんだけど……」
「じゃあ、何食べたのさ?」
「穴子とか……さ。」
 なんだかよくわからない。なんでこんな穴の中で穴子を食べるんだろう?でもわけわからんながら、五郎は何か食べるものを持っているらしい。僕は今日は結局おやつを食べてなくて、すごくお腹が空いていることに気がついた。これから何とかしてここを出るために頑張らなきゃならないし、腹がへってはいくさはできぬ、何かわけてもらえないかな。僕がそうもちかけると、五郎はずいぶんと黙っていたあげく、「誰にも言わないでほしいんだけど……」と前置きしてびっくりするような話をうちあけた。
 五郎の家は、代々続いてきた「だじゃれ使い師」という超能力者の家系なんだという。だから両親ともいろいろ秘密の用事があって家を開けがちだし、 五郎も稽古を積まなきゃならないからあんまり遊んでもいられない。で、五郎の使える超能力というのはだじゃれを実体化できる能力だという。どういうこと?
「だから、五味君にも穴子を出してあげてもいいんだけど……」
「うん、出して出して。」
 五郎は地面に人差し指で小さな穴を五個開けた。その上に風呂敷みたいな大きな布をたたんでかけると。
「穴が五、穴が五、穴が五、アナゴ!」
 風呂敷を引き上げて見ると、さっきあいてた地面の穴はなくなっていて、棒みたいに長い魚がピチピチ跳ね回っていた。
「すごい、すごい。すごい……んだけど、これどうやって食べるの?生でかじったの?」
「いや、ごめん……昨日までは……だんごむしみたいなのがそこらへんにいたんだ。だから虫を穴の中に入れといて、『虫・穴が五』 って呪文をかけると……」
 蒸し穴子が出てきたんだという。僕もそこらをガサゴソ探してみたけど、虫をみつけることができなかった。いくらなんでもこのピチピチはねてるやつをそのまま食べる気にもならない。期待した分、余計にお腹がすいてしまった。
「あーあ」と地面を蹴飛ばす真似をしてみたら、なにかが足に当たった。僕がかかえてきた荷物だ。僕からはなれたところに落ちたらしい。こんな植木鉢さえもらわなかったら……待てよ、鉢
「五郎、この荷物の中に植木鉢があるんだ。鉢が三つでハチミツってだせないかな。」
 それはいい、うまくいったらこんなこと言って悪いんだけど欲を言えば僕にも少しだけわけてくれたらすごくうれしいなとちょっと期待したりするんだけど、と口の中で五郎はもごもごいいながら(なにしろ最後の蒸し穴子を食べたのが昨日のお昼だったというから、どっちかというと僕より五郎のほうがもっとお腹が空いていたようだ)、したくを始めた。僕は、いいよわけてやるよ、と太っ腹なところを見せながら、ハチミツ食べるのなんて久しぶりだな、とろーりと金色のハチミツ、ホットケーキとかせめて食パンでもあればもっといいのにな、でも贅沢いうのはやめておこう、とか思っていた。植木鉢を三つ並べて、五郎が呪文を唱え始める。
「三つの鉢、三つの鉢、三つの鉢……」
「おい五郎、ちょっと違うんじゃないか?」
と僕が口をはさんだときにはもう遅かった。五郎はまちがった順番で最後の言葉を言い終わってしまっていた。「ミツバチ!」
 風呂敷が取り払われると、呆然と見つめる僕の前には、一匹の蜜蜂がとまっていて、 やがて何事もなかったかのように飛び立つと、ここから出られない僕達をあざ笑うかのように、穴をぬけていってしまった。
「……ごめん。間違っちゃったね、なんかお腹がすいて、頭がぼうっとしてて、それで……」
「馬鹿、五郎の間抜け、能無し、うすらとんかち、抜け作……」
 なんだか悲しくて涙がにじんできてしまった。五郎は僕の剣幕に驚いたのか、お腹がすいてもう声を出すのもつらいのか小さな声で
「ごめん……五味君。あの……ね、さっきちょっと見えたんだけど、君の風呂敷の中に、 箸が入ってたような気がしたりして……五本くらい、あるかな?」
「何に使うんだよう。」
「箸が五本で……ハシゴってできたりするんじゃないか、と思って。うまくいったら……ここから出られたりするんじゃないかと。」
 僕は顔を上げた。確かめて見ると、箸は二膳、つまり四本しかない。「折っちゃえ。」と力をいれるとあっけないくらい簡単に折れて五本になった。呪文をかけると、 風呂敷を跳ね飛ばしながら、もうちょっとで穴の口にまで届くくらいの梯子がそそり立った。見上げると、さっきより穴から来る光がずいぶん暗くなっているような気がする。
 五郎は、なんていうか、あんまり運動神経がいいほうじゃないし、高所恐怖症だっていうんで僕が梯子を登っていった。梯子のてっぺんで手を思い切り伸ばして、もう少し、もう少しで穴のふちに手が届くというときにいきなり僕の体は落ち始めた。下で五郎が「わー、梯子が折れたー。」と叫んでいる。おばあちゃんの馬鹿、なんであんなに折れやすい箸をくれるんだよ、おかげで折れやすい梯子ができちゃったじゃないか。そんなことを考えるまもなく僕は地面に激突して、そして気が遠くなってしまった。



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