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みつばちの童話と絵本のコンクール


「鬼のおくりもの」 一般の部 佳作 しおた としこ(岡山県)

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 ほとほと、ほと。ほとほと、ほと。
 だれかが戸をたたくもんじゃから、おばさは目がさめた。
(どなたじゃあ……)と、しんばりはずして戸を開けると、村の庄屋さまが立っとられる。
「あれ、庄屋さまぁ、こねえに早うから、なにごとじゃろう」
 小がらな庄屋さまは、人さし指で天をつきながら、白い頭をふりふりにこにこ言った。
「日はもう高けで……。塩サバとするめ、まっとったんじゃ」
(ああ、そうじゃった。庄屋さまに、たのまれとったんじゃった)と、思うたとたん、鬼のことを思い出した。
「それが庄屋さまぁ、きのう鬼に出合いましたんじゃぁ」
と、一部しじゅうを話した。
「そんなら全部、鬼にとられたんか」
「いや、庄屋さま。とられた言うのとは、ちょっとちがうんじゃ。わしの方が、つつみを開けて、鬼にやったんじゃから」
「そりゃ、やっぱりとられたうちじゃろうが。じゃが、命あってのものだねじゃ。不幸中のさいわい、と言うやつじゃな」
 よかった、よかったと、庄屋さまは帰って行かれた。庄屋さまを見送りながら、おばさは大きなため息をついた。
(もういっぺん、仕入れなおさにゃいけん。じゃけど仕入れのお金はどうする。ぜんぜんありゃせん。売って買って、売って買ってで、まわっとったんじゃ。売ってがのうなったら買うこともできんが……)
 おばさは、もうひとつ大きなため息をついて、家ん中へ入ろうとしたが、ブーンと言う音で、おやっとふり返った。なんと蜂が目の高さに飛びまわっとる。(ひょっとして、きのうの蜂かな、三びきじゃし……)と思うた後で、(まさかぁ)と、つけくわえた。
 ところが蜂は、やかましゅう顔のまわりを飛びまわる。おばさが(やっぱりきのうの……)と思うたとたん、蜂たちは、ついてこいと言うように、山の方へむかっては、引き返してくる。

 おばさは蜂を追って、走ったり歩いたり、山ん中を行くと、急にひらけたところに出た。
 そこの草がぬかれたところに、ま新らしい手おけが一つ、おいてある。蜂はそのおけのまわりを、音をたてて飛びまわった。
(なんじゃろう)おばさは、おけのふたを取って見たら、とろりと黄色いものが入っとる。
「鬼さまぁ……これをわしに、くださるんじゃろうかぁ」
 おばさは、大きな声で言うてみた。すると遠くから、鬼の声が聞こえた。
「おうよ。それが礼じゃあ……それをなあ、ひとさじずつ売れぇ……万病にきくぞう……」
(ふうん、病気にきくならにがい味じゃろうな)そう思うて、ためしに指につけてなめてみた。なんと、それまでにいっぺんも口にしたことのない、あまいあまい味じゃ。
(はあ、こりゃあ、なんとうまいもんか)
 おばさは、もういっぺん聞いた。
「鬼さまぁ、こんなうまいもん、ほんまに万病にきくんかなぁ?」
 返事はなかったが、蜂はもう、帰り道をおしえようとしとる

 おばさは家に帰ると、まずおっ母になめさせた。
「おっ母。これは万病にきくんじゃと。しっかりなめて、元気になってほしいが……」
 おっ母は、両手を合わせて、なきながら言うた。
「のうや。こんなうまいもん。生まれてはじめて、口に入れさせてもろうた。せがれが死んでから言うもの、おまえには苦労ばっかりかけとるのに、こんなうまいもんをなあ」

 おばさは万病のくすりを、庄屋さまに持って行った。
「こりゃぁみつじゃ。蜂みつじゃがな。それもえれえりっぱな蜂みつじゃ。こんなええ蜂みつは、しょうぐんさまでも、めったにお口にゃできんじゃろ」
 庄屋さまは、えろう喜ばれて、おけの中の半分を、びっくりするほど高う買うてくれた。
 おばさは考えた。(庄屋さまはたんと銭をもっとってじゃから、喜んで買うてくださった。じゃが村のしゅうは銭のないもんが多い。そんなもんにかぎって病気でこまっとる。よしきめた。あとはただで分けよう)
 おばさは万病のくすりを、せきでこまっとる市じいさんのまごにやり、ちちが出んでよわっとったおよね方のよめにやり、となり村の、病気でかせげんようになった吉三にやりして歩いた。
「たのむたのむ、おらの馬がたおれた。おらの馬にもなめさせてやってくれ」
と、むこう村の男にたのまれて、馬になめさせると、なんと馬はおき上って、ヒヒヒーンと、いせいようないた。
 万病のくすりは、びっくりするほどようきいた。ちゅうぶでねとったじじさも、足をいためとった男も、青い顔でぜいぜいしとった女も、二、三日もするとピンピンして、畑のもんやら山のもんやら、川のもんやら持って礼に来た。
 湯のみ一ぱいの、白い米を持って来たものもいた。おばさはその白い米をたいて、おっ母に食べさせた。おっ母は、
「万病のくすりもうまい。白いまんまもうまい。わしはなんと幸せもんじゃろうか」
と、またないた。
 いや、人間だけじゃあなかった。
 たぬきやきつね、鹿やら小鳥までがおばさのくすりで元気になった。
 すっかりからになった手おけの中を、もうひとすくいとれんかと思うとったとき、ブーンとあの音がした。蜂じゃ。おばさはためらわず、からの手おけを持って蜂を追った。

 いつかのひらけたところについたが、蜂は飛ぶのをやめん。
「鬼さまあ……万病のくすり、ありがとうございましたぁ。手おけ、お返しせにゃあいけんと思うとりました。ここにおいといて、よろしいじゃろうか」
 おばさが大声で言うと、遠くの方から声が聞えた。
「もっと、こっちへ来いよう。いいもん見せてやろう」
 おばさはまた、半分走りながら蜂を追うた。
 するとどうじゃろう。花のさきみだれている所にたどりついた。かぞえきれん蜂がぶんぶん飛んどって、花の中に鬼がすわっとる。
「よう来たぁ」
と、鬼が言うた。
「おばさよ。この花畑をおまえにやる。おしえてやるから、これからは万病のくすり、自分であつめろ」
 おばさは、目をまわしそうになった。
「鬼さまぁ。手おけ一ぱいで、じゅう分じゃが。あれだけで、どんなに助かったことか。おかげでおっ母も元気になったし」
 鬼はわらった。わらう声はかみなりのように、ごろごろとひびいた。

「万病のくすりは、少しずつ、つづけてなめろ。蜂をかわいがってくれ。そうすりゃあ蜂が、くすりを作ってくれる」
「鬼さまぁ、これから、どうされるんじゃ」
「おばさに、仕事のやり方おしえたから、わしは行く。まだせんとならんことがあるからな」
 鬼はそう言うと、よっこらしょっと立ちあがり、ずしん、ずしんと、行ってしもうた。

 何年たったじゃろうか。
 おばさは村のしゅうに、おばさとはよばれず、おばばとよばれるようになっておった。
 雪どけの、ある日のことじゃった。蜂がむかえに来たので、おばさは花畑に行った。
 花はもうさいとった。いや、ずーっとさいとったんかもしれん。
 花畑のまん中に、黒いもんがある。
 なんじゃろうと、そばまで行ってみると、鬼がたおれとった。おばさはおどろいて、
「鬼さまあ……鬼さまあ……」
と、よんだ。なんべんもゆすったら、鬼はたいぎそうに目をあけて言うた。
「おばさか……。わしは、もうじき命がつきる」
「万病のくすりが、あるじゃろうに……」
と、おばさはないた。鬼はごろごろわらった。
「わしは、病気じゃあない。年よ、年……」
 そう言うて、鬼は力なく手をふった。
「千年も生きた。おばさよ。おばさに助けられてからの年はなあ、おまけじゃった」
「鬼さまあ、死んじゃあいけん、死んじゃあ」
 おばさは、なきにないた。
「ここは、わしがおらんようになったら、元の山にもどる。おばさよ……もうここには来るな。すぐ帰れ……」
 おばさは、大声でさけんだ。
「いいやっ。わしは、鬼さまのそばにおらせてもろうて、かん病させてもらいますっ」
 鬼はまた、やっと聞こえる声でわらった。
「おばさよ、帰れ。わしは風になる。帰れ……」
 鬼がそう言うと、花畑に、さあーっときりが立ちこめてきて、たちまちなんも見えんようになってしもうた。と思うたら、ぶーんと音がして、蜂が目の前を飛びまわりはじめた。
 おばさは蜂について、とぼとぼ歩いた。
 蜂の羽音が聞こえんようになって、おばさがわれにかえると、足もとの谷川が、雪どけ水を、ようけあつめて、いきおいように流れとった。

 おばさの、万病のくすりは、それからも、みなのしゅうを助けた。
 手おけの中の蜂みつは、いくらすくっても、あくる日には、ちゃーんとふえとるのじゃった。




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