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みつばちの童話と絵本のコンクール


「ミツバチがやって来た!」

優秀賞

作 古野 孝子(東京)

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女の子のおばあさんは、歯がないことからみんなに歯なしのおばあさんと言うことで、ハナバと呼ばれるようになりました。それを聞いたおばあさんは、
「気に入った!」
と、言ったそうです。
そのハナバは、草がきれいに刈り取られた庭のまん中にあの古いミシンを置いて、かちゃかちゃ踏みならしながら、布で何やら作り始めました。
みんなの働きで、お昼前にはすっかり引っ越しが済んで、どこもかしこも古いなりにきれいな家になりました。
村人は一息ついて、今度はミツバチの贈り物の、冷たくひやしたミツバチジュースというものをごちそうになったのです。
「うまいもんだ。疲れがさーっと引いていくようだ。ところでハナバ、ミツバチをどうすればこの村に呼ぶことができるだろうか」
「そうだ。なんとしても来てもらいたいね。こんなに貧しい土地だから嫌がるかもしれないけれど」
「子どものおやつと言えばジャガイモぐらいだもの。こんなに甘くておいしいものを食べさせてやりたいね」
みんなは、ハナバの知恵を借りたいと質問責めにしました。
「大丈夫だ。ミツバチはかわいい生き物だ。いじめないで仲良しになれば、なんぼでもよってくる」
ハナバは自信を持ってそう言いきったのです。もちろんケンが通訳しました。
みんながそろそろ帰り支度をし始めると、ハナバはミシンでつくった小さな袋を、一人ずつに渡しながら言いました。
「今日は、ありがとう。本当に助かった。うれしかった。さっきの話じゃが、この村にミツバチを呼ぼうと思うがいかがかな」
みんな大賛成でした。
「わしはさっそくミツバチに来てくれるように手紙を書く。この村はみんな親切で住み良いところだと書く。ミツバチをいじめたりしないと書く」
ハナバくらいの年になればミツバチにだって手紙くらい書けるんだと、みんなは納得しました。
「ミツバチがやって来るまでに、たくさん準備しなければならないことがある。この袋の種を野原一面にまいておくれ。そして陽当たりのいい丘にはミカンの木を植えよう。人も木も虫も魚も動物も、みんな助け合って仲良く暮らせば、天から地からそこら中から力がみなぎってくる」
ハナバはそう言ったのです。そうしてみんなはハナバの作った布袋をおみやげにもらいました。
その袋には小さな女の子が入れたレンゲの種が、たくさん入っていました。







村人はハナバからもらった種をまきました。そしてハナバのいうとおり、人も木も虫も魚も動物もしっかり助け合って暮らしました。
しばらくするとぼうぼう屋敷には『ミツバチパーラーと針灸の店』と書かれた看板が立ちました。
そして入口には、
〜お疲れの肩、ハナバまでお持ちください。肩にチクリとハナバ灸をプレゼントいたします。一針で肩こり、全身の痛みがすっきりと取れます。そしてお疲れの方、ミツバチパーラーでミツバチジュースをお楽しみ下さい。農作業、家事の疲れ、遊び疲れが解消します。栄養満点ミツバチジュース〜
と、書かれていました。
ハナバの灸はなにしろよく効きました。それに疲れた後の、ミツバチジュースのおいしかったこと。ぼうぼう屋敷はいつしか村人の憩いの場所になりました。
ハナバと女の子は一年に何度か、あのボロ車に乗って長い旅に出かけました。
そして村人が待ちくたびれた頃、ボロ車の荷台にハチミツをたくさん積んで戻ってくるのでした。







何年かたって春になると、村の原っぱには一面のレンゲの花が咲くようになりました。丘のミカンの木も育ちました。
ケンはたくましく大きく成長しました。今ではケンの通訳なしに村人はハナバの口元を見つめているだけで、なにを話しているのかわかるようになりました。
しかしハナバは昔と変わらず今でも年寄りでした。みんなはもうハナバがいくつになったのか忘れました。
小さな女の子も昔のままでした。その女の子は話をしないのが当たり前で、誰も少しも不思議に思いませんでした。
大きくなったケンは、小さい女の子に羽があることなどすっかり忘れてしまいました。
それぞれ違った姿や暮らしがあって当たり前。天も地もすべてを大事にする暮らしが根づいて、それぞれの生き方を大切に思うやり方を守るようになりました。







翌年はことのほか暖かく、レンゲ畑は勢いよく美しく咲きそろいました。
村人がぼうぼう屋敷の入口に貼られた一枚の紙を見て、大騒ぎになったのはそんな日のことでした。
〜ハナバと女の子はこれから長い旅に出ます。いつ戻れるかわからない旅です。長いことお世話になりました。おかげさまで幸せに暮らしました。〜
全ての村人がぼうぼう屋敷に集まったときです。ごーっと言う羽音とともに、昼間の明るさを遮って黒い固まりのようになったミツバチがぼうぼう屋敷めがけて舞い降りてきました。
「ミツバチだ!」
長年待っていたミツバチの大群が押し寄せたのです。
こうしてハナバ達がいなくなったぼうぼう屋敷に住みついたミツバチは、村人と仲良く暮らし、年に二回、レンゲとミカンの花からたっぷりな蜜を村人にプレゼントしたのです。
村人はミツバチのおかげで栄養たっぷりの蜜の他に、針治療まで施され、ミツバチを大切にしながら暮らしていきました。
村はいつしか、季節ごとの花が咲き乱れ緑が生い茂る、艶やかな香りのいい所になりました。
ケンはミツバチの羽音を聞くと、ふと懐かしくあの女の子のことを思うのですが、果たしてそれが夢の中の出来事なのか、小さい頃に読んだお話だったのか分からなくなってしまうのです。
しかし村の長老になったゲンゴロウ爺さんだけは、あのオンボロ車に乗ったハナバが、今でもこの村の見張りをしながら、ガタランゴトロンと車を運転して回っているというのです。もちろんあの小さい女の子も乗っているそうです。




おわり



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