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みつばちの童話と絵本のコンクール


「ミツバチがやって来た!」
優秀賞
作 古野 孝子(東京)

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山を三つ越えた森のはずれに、小さな村がありました。
あまり小さいので地図でさがそうとすると、十日はかかります。
陽あたりのいい丘と緑が広がる、おだやかな村でした。このいいとこだらけの村にも、一つだけ欠点がありました。
それは土が悪くて、あまり作物が育たないことでした。それでも村人は、いつの日か栄養のあるおいしい作物が作れるようにと毎日土づくりに励んでいました。
ところでいつもは静かなこの村が、今日ばかりは火山が爆発したような、大騒ぎの日になってしまったのです。
事の始まりは一台のオンボロ車です。
何がひどいって、これほどのオンボロ車には、めったにお目にかかれるものではありません。
人差し指でちょっと押せば、すぐにパラッと解体しそうによれよれの車でした。
そんな動く鉄くずのような車が、ガタランゴトロンとわれ鐘のような音を立てて、こともあろうに静かなこの村に、よろめきながら入ってきたのです。
五月晴れの昼下がりのことでした。
お昼ごはんがすんで、どこの家ものんびりとくつろいでいる時間でした。
「あれ!何の音だろう」
近づいてくるガタランゴトロンの音にびっくりして、ほとんどの村人がいっせいに表に飛び出しました。







ちょうどなだらかな丘を下って、ボロ車は、風にゆれながら村の一本道にふうらりと入って来るところでした。
村人は口を大きくポカンとあけて、やって来るけたたましい響きに一心に目をこらしていました。
たいへん長い時間のようにも、ほんの少しの時間のようにも思えましたが、とにかくガタランゴトロンは近づいてきました。
ボロ車を運転していたのは、まっ白な髪の毛を風邪に巻き上げたおばあさんでした。
立ちつくしたまま身構えていた村人の姿を見ると、おばあさんはうれしそうに手を振って、歯のない口をもぐもぐさせながら、
「お出迎えありがとさん」
と、言ったらしいと言うことなのです。
なにしろおばあさんの口の中には、歯が一本も残っていなかったと、村一番目のいいゴンさんが言うのです。
そのためにおばあさんがニコニコしながら発した言葉は、
「ふにゃらほよよよ〜」
と言うように村人には聞こえたのです。
この難解な言葉を通訳したのが、耳のいい今年五歳になったばかりのケンでした。
「おばあさんはお出迎えありがとさんって言ったよ」
それで決まりです。ケンの通訳なら間違いありません。
ところが驚きはそれだけではなかったのです。ボロ車の荷台には、これまた古いミシンがのっていました。そして誰もミシンにさわっていないのに、ひとりでにペダルが動いてガタランゴトロンの音にあわさって、ブッチャッチャッ ルチャッチャチャーとサンバリズムで景気よく調子をとっているのです。
その音があまりにも軽快で、いつも身じろぎもしない石のお地蔵様が、思わず踊りだしたのを、何人かの村人が見たと言うことで、これもまた大騒ぎになりました。
ところがところが驚きはさらに続くのです。ミシンの上に、ケンぐらいの年の女の子がちょこんと腰かけて、おとなしく座っていました。
大きめの黄色い帽子をかぶって、もじもじととても恥ずかしそうにしていました。
そうこうしている内に、おばあさんの運転するボロ車が、急にふるえ出すと、前のめりに走り出したのです。
その時風にあおられて、女の子のかぶっていた帽子が、ふわりと風に舞い上がりました。
と、その時です。女の子が飛ばされた帽子を追ってふわりと飛び上がったのです。
ほんの一瞬の出来事でしたが、ケンは女の子が金色の羽をきらめかせて、ひらりと空に舞い上がると、上手に帽子を捕まえるのを見てしまったのです。
女の子は帽子を手にすると何事もなかったように、ミシンに腰かけました。
もちろん金色の羽など、少しも見えません。
ケンは見てはいけない秘密をのぞいたようではっとして、周りの人の様子をうかがいました。
幸いなことに、みんなはお地蔵さんのダンスの話に夢中で、女の子の背中にかくれた金色の羽に気付いた人は、誰もいないようでした。
ケンはほっとして女の子を見ました。女の子は、飛ばされた帽子をかぶり直しているところでした。そして、
「今見たこと、二人だけの秘密よ」
女の子はそう言うように、ケンに向かってにっこりと笑いかけたのです。
やがてボロ車はガタランゴトロン ブッチャッチャ ルチャッチャチャーと、遠ざかって行きました。







いつもならお日さまが沈むと、お月さまの光だけがきらりんと輝いている、し〜んとした夜になるはずでした。
ところが今日は違います。どこの家でも遅くまで明かりが消えず、昼間のボロ車の事を何度も何度もあきることなく話し続けていました。
ケンももちろん起きていました。昼間見てしまった女の子の金の羽のことを、父さんや母さんや兄ちゃんに、教えたくてたまらなくなってくるのです。
口がひとりでにムゴムゴ動いてしゃべれ、しゃべれとはやしたてるのです。
秘密にするってなんと難しいことだろう。ケンはしゃべりたくてたまらない自分に腹を立てていました。
しかし、
「二人だけの秘密」
と言いたげにニッコリ笑った女の子との約束を思い出しては、しゃべりたそうになる自分をなんとか我慢させたのです。
眠れないほどびっくりさせられた一夜が明ける前に、またもや大騒ぎが持ち上がったのです。
村一番早起きのゲンゴロウ爺さんが、いつものように愛犬ヨタを連れて日課になっている朝の散歩に出かけたところ・・・。
村のはずれの草がぼうぼうに生い茂った古いこわれかけた家に、昨日のボロ車のご一行様が住みついて、大掃除を始めているではありませんか。
それを見たゲンゴロウ爺さんは、村人がぼうぼう屋敷と呼んでいる村はずれの古屋から、たったの一分で、村の広場まで駆け戻ったそうです。普通なら十五分はかかります。
この大事件を早くみんなに知らせたいと思っても、村の人は昨日の夜更かしがたたって、まだ夢の中でした。
「なにをしてるんじゃ。早く起きろ!」
ゲンゴロウ爺さんは、火の見やぐらに駆け登ると朝の四時から半鐘をじゃんじゃん鳴らして、みんなをたたき起こしました。




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