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みつばちの童話と絵本のコンクール


「けんた印のハチミツ」

努力賞

作 おおたさとみ(岡山)

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ミツバチたちはそこに巣箱を置いてくれることを最初から知ってでもいたかのように、すっかり引っ越しした。ミツバチは本当によく働く。そしてコンパスも分度器も使わないのに上手に六角形の巣を作っていく。本で読んだり、おじいちゃんに聞いてることでも、自分の目で見るとすごく感激する。後ろ足に、重たいほどの黄色い花粉ダンゴをつけて帰ってくる様子を見つけたりすると、いとおしいような気持ちになる。そして、元気がもらえる。
ぼくはここでの暮らしがけっこう気に入った。剛もいいやつだし、ハチもいいやつだと思う。それにまたまたいいことがプラスされることになった。夏休みを前に、母さんと妹が退院することになった。ぼくはうれしくて、ジャンプしたり、おしゃべりが早口になったりした。退院の日、
「母さんだ、母さんだ」
思わずとびつくと、母さんはやっぱり母さんだった。妹は、まだ小さくて、お人形のようなかわいさはないし、ぬいぐるみのように抱きやすくもなかった。でもいつまで見てても見あきない。とても大切で大事で、やっぱりかわいかった。
夏休みになった。父さんも休みがとれ、一週間田舎に帰ってきた。ぼくは忙しかった。一週間の間に、父さんにぼくがどんなに魚取りが上手にできるようになったか見せなければならなかったし、秘密のどうくつにも案内したかった。そして何より、ぼくが養蜂家であることを見せたかった。ぼくは、一週間父さんをひっぱりまわした。
夏休みの宿題の自由研究を「ミツバチの観察」にした。ミツバチがぼくの家の松の木にすごい集団でやってきたこと。巣箱で飼うようになったこと。ハチたちは本当によく働くこと。そして本で調べたこと。おじいちゃんに教えてもらったことなどをまとめた。ハチミツの取り方については、絵入りにした。
巣箱のふたを開け、けむりをかけ、ミツバチをおとなしくさせてから、ミツの入った巣板を取り出す。けむりをかけると、ミツバチはあわてて逃げたり、部屋に頭をつっこんだりする。それからミツの部屋のふたをナイフできり、遠心分離器にかけて、ミツを取り出す。そして布でこす。
ぼくは楽しくて楽しくて、宿題と名のつくものをこんなに一生懸命したのは、はじめてだった。
夏休みはあっという間に終わり、宿題のミツバチの観察が学年の代表に選ばれた。全校生徒の前での発表。ぼくは、手の内側に冷たい汗をかき、心臓はバッコンバッコンと音をたてた。
秋になった。妹は少し大きくなり、ミツバチたちは庭のコスモスの間をブンブンとびまわっている。収穫を祝う秋祭りがある。毎年商工会などのテントが並び、野菜や手作りのものなどいろいろ売られる。ばあちゃんもさつまいもを売るんだとはりきっている。ばあちゃんのさつまいもは、たくとホクホクして甘くて、毎年とても評判がいいんだ、といつも自慢している。それでぼくもハチミツを売ろうかと考えた。
剛のおじいちゃんに相談すると、
「じいちゃんのハチミツを出店するから、けん太君の分もしてやるよ」
と、言ってくれた。
父さんに、ぼくは店を出します、ハチミツ屋です。という手紙を書いた。
数日後、父さんから返事がきた。

けん太へ
一年後、ひとまわり大きくなって、いっしょに《家族》しようと、四月に別れたが、けん太はあれからたった半年で、ひとまわりもふたまわりも大きくなったな。父さんは、けん太の様子を知るたびにうれしく思う。それでささやかだが、今回はプレゼントがある。気に入ってくれるといいんだが。
父より

開けてみるとプレゼントは、父さんがデザインした、ハチミツのびんにはるラベルだった。ラベルには
けん太のハチミツ
と大きく書いてあり、まわりをハチが飛んでいる。そしてそのハチの一匹が、

元気印

けん太印

と書いたカードをぶら下げていた。ぼくはすごくうれしかった。びんにラベルをはり、ハチミツをつめると、本当にりっぱなけん太印のハチミツが完成した。
秋祭りの日、剛のおじいちゃんのハチミツとばあちゃんのさつまいもの間に、ぼくのハチミツも並べて売ることにした。
ぼくはびっくりした。人前で大きな声なんかしない母さんが、
「いらっしゃい、いらっしゃい、けん太印のハチミツ、おいしいよ」
と、妹をおんぶして叫んでいた。ハチミツの力ってすごい、みんなを元気にするんだと思った。そしてぼくも、
「元気印のハチミツだよ」
と、叫んだ。すると母さんが、
「ほんとにけん太は元気になったわね、四月から一度も学校を休んでないし、胸もゼーゼーヒューヒューいわなくなったね」
と、言った。ぼくはハッとした。すっかり忘れていた。そうだぼくの胸はゼーゼーいってたんだった。となりにいた剛が、
「おまえ、どこか悪かったのか」
と、聞いた。
「まさか、ぼくは、健康けん太さ」
と答えた。
「そりゃま、そうだな。おまえそれしかとりえないもんな」
剛が言いながら逃げだした。ぼくは力いっぱい走って追いかけた。コスモスをゆらしている風が気持ちいい。遠くでばあちゃんの声がした。
「こらあ、けん太、しっかり店番しねえと、ばあちゃんはさつまいもしか売らねえぞ」




おわり




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