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十 カマキリ
外勤バチの毎日も、おもったよりずっと大変だった。
花から花へ飛びまわって、花の蜜を吸って、とても楽しそうにみえるだろうけれど、そんなものじゃない。
お城に飛んで帰ると、おなかいっぱいの重いからだで報告ダンスを踊らなければいけない。ダンスは「花をみつけてきたよ。あっちの方だよ」と仲間に教えるためなんだ。
また、太陽がのぼってから沈むまで、少しも休まず働かないと一日の仕事が終わらない。だから、夜にはもうくたくた。
わたしは毎日、たいていQの一といっしょに花をさがして飛んでいた。ほかのQ部屋の仲間がおおぜい、いつもいっしょだった。
そのうち、花をさがして飛ぶ距離がだんだん長くなってきた。疲れたからだを休めることもなく、晴れてさえいれば仕事、仕事。
さあ、今日も出発だ。
わたしたちはお城をでて、草原にあつまった。
そのとき、わたしのうしろで、バサッと大きな音がした。
ふりかえると、カマキリがいる。カマキリはいま、仲間の一ぴきをとらえようとして、大きなカマをふりおろしたところだった。でも仲間はうまくとびのいたらしく、カマの先にはミツバチのあと足が一本だけつかまっていた。
ところが、カマキリはあきらめない。三角頭に大きな目をひからせて、ゆっくりカマをふりあげる。
あ、こんどはわたし!?
ねらわれたとおもったら、恐ろしさで、はねも足も動かなくなってしまった。
バサッ!
頭の上からカマがおりてきた。
わたしは必死でお尻から毒針をだす。でも、カマキリとむかいあわせのしせいでは、お尻の針は相手にとどかない。
カマキリはわたしをおさえつけて、ぐっと力を入れた。わたしは六本の足をふんばって、大きなカマの下で首をもたげる。
エイッ!
のどにかみつこうとしたが、しゅんかん、わたしはカマキリのカマにしっかりかかえこまれていた。
ブワン ブウン ブワン
仲間たちがまわりでさわぎたてている。わたしはあばれて必死で抵抗する。カマキリのカマはますますきつくからだにくいこんでくる。
もうだめ!
ついにかくごしたそのとき、とつぜんしめつけられていたカマの力が、ふわっとゆるんだ。
いきなりわたしをほうりだしたカマキリは、からだをぐんとそらせたとおもうと、くるりとむきをかえた。
バサッ!
また大きな音がした。だけどわたしは、痛めつけられた背中や足の痛みで身動きもできない。ふるえながら草の上にころがっていたら、
「さあ、はやく逃げるのよ」
Qの一だ。
バリ バリ バリ
わたしははっとして、音のするほうをようやくみた。
カマキリは恐ろしい目玉を光らせて、カマでかかえこんだミツバチをかみくだいている。
「はやくう」
Qの一にせかされて、やっとのおもいでわたしは草の上を少しはった。歩けないと知ったQは、わたしを力いっぱいひきずって、カマキリから遠くへはなしてくれた。
わたしを草の葉のかげにおしこんだQは、
「気をつけなくっちゃ。しばらくここで休んでらっしゃい。わたしは蜜をあつめにいってくるから」
と、はねをひろげた。
「ま、まって・・・・」
わたしはあわてた。こんな恐ろしいことがあったというのに、へいきで蜜をあつめにいくといえるQの一が信じられない。
「ね、ね。わたしをたすけてくれたのは、だれなの」
「P部屋のだれかよ」
「P?」
「そう。はじめにつかまりかかったPよ。足をとられたとき、カマキリを刺したもんだから、カマキリに食べられなくってもどうせ死ぬ の」
「ええっ」
「あいてを刺したら自分の命はおしまい。だからあなたを救けようとしたんだわ」
わたしはひやーっとした。カマキリを刺さなくてよかった。
でも、わたしのかわりに命をおとしてしまったP部屋のミツバチのことをおもうと、胸がチクチクと痛んでくちがきけなくなってしまった。
Qの一は飛びたっていった。
わたしはしばらく休んでいたが、ようやく動けそうになったので、草の上をはってお城の入口へとむかった。
蜜をもたないで門番の前をとおるのは、とてもつらかったけど、今日ばかりはしかたがない。わたしはやっとのおもいで三階までのはしごをよじのぼり、Q部屋にはいって眠ってしまった。
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