ミツバチの童話と絵本のコンクール

ハニー&ベリー

受賞疋田 菜光 様(大分県)

 雨の前の生温かい風が、私の髪をなでていく。私はもう一度大きなため息をついて、手の中にある物がつぶれていないか確かめた。赤くて大つぶのラズベリー。ひみつの場所でだけとれる、りっぱなラズベリー。毎年春になると、私は帰り道寄り道をして、友だちといっしょにたくさんのラズベリーをつむ。ラズベリーを冷凍庫で凍らせて作る「ラズベリー・アイス」は友だちにも評判だ。そして今年も、そんな季節がやってきたというわけ。でも、今日はラズベリー・アイスも、「そんな季節」もどうでもよかった。私の心はずっしりと重い。三度目のため息はくもり空にとけていった。

 今日の昼休み、私は結衣とけんかした。きっかけはささいな事。
「身近な虫を一つ選んで、二人一組で調べてノートにまとめてきて下さい。」
 先生のだした今週の課題。私と結衣はすぐにペアを組んだ。調べる虫も、「身近だから」とミツバチに決まった。早速昼休みに二人で図書室に行った。
「みて、働きバチは花のみつを集めて幼虫にあたえるんだって!」
「それくらい知ってるよ。」
「巣の中では、女王バチと働きバチ、おすバチの三種類のハチがいるって。」
「それも知ってる。」
 私はだんだん腹が立ってきた。
「ねぇ、そんな言い方ないんじゃない?」
「そっちがそんな分かりきった事しか調べられないからじゃん。」
 結衣は気が強くてがんこだ。だから自分が悪いと思っても、なかなかあやまろうとしない。それにすぐおこる。でも私だって言われてだまっている方じゃないから、すぐにけんかになる。結衣は「そんな分かりきった事」とかなんとか言ってたけど、きっとそんなの本当の気持ちじゃない。友達なんだから、分かるよ、そんな事ぐらい。
 そのまま一分間のちんもくが続き、ついに結衣はだまりこくったまま本を持って図書室を出て行った。 

 結衣とけんかしたので、家に帰っても遊ぶ人がいない。こうしてみると、私は一日のほとんどを結衣とすごしていたことに気付く。たいくつしていた私は、庭に出てぼーっとしていた。真っ白なマーガレットに、ミツバチがとまっている。
「こうやって一生けんめいハチミツを集めているんだな。」
 そうだ。ハチミツ???
 ラズベリーは、確かにおいしい。でも、毎年酸味が強くて、甘党の私をなやませる。さとうを入れたりもしてみたけど、やっぱり自然の味を生かしたい。
 でも、ハチミツなら???
 ちょうどいい甘さにする事ができるんじゃないか・・・
 私は台所に直行した。凍らせたラズベリーにハチミツをつめる。金色のハチミツが真っ赤なラズベリーの中にきれいに着地するのを見て、ふと思った。結衣だって…。結衣だって、本当は心の中であやまりたいって思ってる。そんなの私が一番知ってるはず。私がハチミツみたいに結衣を素直に甘くできたら・・・。
 私は公園めざして走った。このラズベリーを結衣といっしょに食べたい。そう思ったら足が無意識に動きだした。だれよりも先に結衣に食べてもらいたい。そう思ったら心がはずんだ。私はこんなにも結衣のことを大切に思ってたんだ、って思った。そりゃそうだよね。一番の親友だから。公園が近づく。ブランコに一人でのって、うつむいている女の子が見えた。思った通り結衣はそこにいた。私が見えると、結衣はブランコを大きくこいで、強がった。
「結衣。」
「何よ。」
 結衣はとげとげしい言い方をした。相変わらずの態度。まったく。強がりにも程がある。でももういい。私はあらい息を落ちつかせてから、結衣に歩み寄った。
「いっしょに食べよ。」 ハチミツ入りラズベリーを、結衣の手のひらにのせる。口の中に入れると、やわらかくて、素直な甘さが広がった。

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