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ミツバチの童話と絵本のコンクール

花坂さん

受賞杉岡 美恵 様(愛知県)

(それにしても、ほんとぼろ家!)
 私は越してきてまだ三日目のおばあちゃんちの縁側で、すすけた天井を眺めてた。セミの声が天井にはね返って、うわーんと響く。
チリンと一つ風鈴が鳴ったけど、それくらいじゃ、この暑苦しさは、吹き飛ばせない。
 おばあちゃんが急に死んじゃって、残った広いおうちをどうするかって話になって、結局私達家族は、マンションを売ってここへ越してくることになった。こっちの四年生がどんなか、私はちょっと心配。いっぺんにいろんなことがありすぎて、まだおばあちゃんが死んだってことも、信じられない。ここへ来たら、いつもみたいにおばあちゃんがにこにこ笑って出てきて、庭の畑でとれたトマトをほいってくれるんじゃないか。そんな気がしてたけど、もちろんそんなことはなかった。
 越してきてからいやなことばっかり。クモとかゲジゲジとかムカデとか、私の大嫌いな虫が、家の中でもかまわず出てくる。ご近所にお引越しのあいさつに行ったら、蚊がわくから庭の池を埋めてくれとか、落ち葉がすごいから木を切ってほしいとか、庭をコンクリートにしてくれれば虫も出てこないとか。どこの人にもねちねち文句を言われた。
 ここ数年で、おばあちゃんちを取り囲むみたいに、マンションが建っちゃったのだ。
「きっと目障りな家って思ってるんだろうね。うまく付き合ってくには、除草剤まいて、池をつぶした方がいいのかもね・・・」
 ママはふう、とため息をついた。私だって虫はどうにも苦手だけど、庭を台無しにするのもいやだし。かといってまた文句を言われるのもいやだし。私もふうとため息をついた。
 そして、もっといやなことがきのうの夜あった。トイレに起きたとき、変な物音がした。前の家の四倍はあるから、トイレも遠い。長い廊下を突き当たりまで行って、台所を越えた先にようやくトイレがある。パチンパチンと電気のスイッチを手で探しながら点け、あたりに目を光らせて進んだ。ようやく台所まで来たとき、その音がしてきた。

 サリサリ、サリサリ。
 びっくりしてパパとママを起こして、一緒に耳をすませた。
「べつに何の音もしないけど」
 ママは寝ぼけて、敷居につまずいてこけた。
「でもほんとにサリサリって聞こえたんだよ」
 私は食い下がった。
「台所でサリサリ? それじゃあ小豆とぎでもいるってのかい?」
 パパは腕を組んで難しい顔をする。
「アズキトギ?」
「妖怪だよ。川や台所なんかで小豆をとぐっていう」
「うそ、そんなのいるの?」
「だって音が聞こえたんだろ?」
 パパはいじわるな目をこっちに向けた。
「さあ、もう寝た寝た」
「小豆とぎ、何もしない?」
「佳奈が寝てればね」
 私はあわててトイレをすませ、布団を頭までかぶって寝た。虫だけじゃなくて、妖怪まで出るなんて、もうほんとにいや!

 セミの声がふっと消えた。今の今まで、あんなにうるさかったのに。私は、微妙に葉の色が違う、もこもこした木の茂みを、まばたきもしないで注意深く見た。昼間だって油断しちゃだめ。一人で留守番してる今みたいなときをねらって、妖怪が襲ってくるかもしれないもの。なんだか・・・妖怪が・・・こっちを見てる気がする・・・。
「キャーッ!」
 くるんと大きな目玉と目が合った。私は大急ぎで奥に引っこんで、ひざを抱えた。
 どうしよう。襲ってくるのかな。食べられちゃうのかな。そうだ、とにかくママに、ママに電話しよう!
 勢いよく立ち上がったら、木の間からかすれた声が聞こえてきた。

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