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ミツバチの童話と絵本のコンクール

夢みつばちのキリコ

受賞藤原 あずみ 様(千葉県)

 ミナトマチ音楽堂の庭のすみに大きなキリの木があります。木にはうろがあって、そこは夢みつばちの巣でした。
 夢みつばちは金色の体に虹色のリボン。黒と黄色のしましまエプロンをつけています。キリコはすえっこで、しかも、とびぬけてちっちゃいミツバチでした。でも、元気がよくて、知りたがりの黒い目がいつでもきらきらしています。
 キリコたちがあつめるのは花のみつではありません。まいごになった夢でした。
 まいごの夢は虹になって、あっちこっちにかかっていました。セミのぬけがらや貝がらのうずまき、どんぐりのからの中。だれかさんの耳の中なんかにこっそりと……。
 古いものほど、ぼんやりとくすんでいました。クモの巣に見えるものもありました。
 夢はまいにち数えきれないほど生まれて、数えきれないほどまいごになるのです。キリコたちが飛びまわると、足にいっぱい夢の粉がくっついてきました。
 その粉をまるめて虹だんごを作ります。そして、いったん巣に持ち帰ってキリの葉のベッドに寝かせたあと、またどこかのだれかにそっととどけるのです。
 虹だんごの世話をするのは、黒アゲハのバタバタおばさんです。おばさんには手が四本しかありません。二本は、食いしん坊のクモに食べられてしまったのです。
 バタバタおばさんは、右側に一本だけついている手で、じょうずにキリの葉のベッドをゆすります。左側の三本の手で、寝かした虹だんごたちをじゅんぐりになでます。
「いいこ、いいこ。みんないいこ」
 かわいがられると、虹だんごはうれしくなって、色がどんどん濃くなりました。
 ねむればねむるほど、まんまるくなりました。
 ある日のことです。
 キリコはバタバタおばさんがいれてくれたはちみつ紅茶を飲んでいました。
 ふと見ると、黒と黄色のしましまエプロンのポケットの中で、何かがごそごそしています。のぞいてみると、そこにはだんごがひとつ入っていました。
 キリコは首をかしげました。
 バタバタおばさんもキリコのポケットをのぞいて、首をかしげました。
「これ、虹だんごかね? ずいぶんへんてこだ。こんなの見たことない」
 おばさんがへんてこだと言うのも、むりありません。その虹だんごはこげ茶色でした。雨にぬれた小石か、野ねずみの目玉みたい。でも、まんまるくてピカピカ光っています。
「もしかしたら、わるい夢じゃない?」
「キリちゃん、すてちゃいなさいよ」
「くさっちゃってるのかも」
 なかまの夢みつばちたちものぞき込んで、てんでに勝手なことを言いました。
「おだまり! わるい夢なんてあるはずがないよ」
 バタバタおばさんがみんなをしかりました。
「わるい願いごとは、虹だんごにはならないよ。ごうつくばりやいばりんぼの夢は、けっしてまるい形にはならないのさ。これはきれいでまんまるい」
 バタバタおばさんは、こげ茶色に光る虹だんごをじいっとみつめ、おなじ目でキリコをみつめました。
「キリちゃん、あんたはあしたから、この虹だんごのもちぬしをさがしなさい。これは長いことあきらめなかった夢だ。でも、待って、待って、待ちくたびれてるからこんな色なんだよ。ちゃんともちぬしにとどけておあげ」
「はい」
 キリコはうなずきました。
 さあ、たいへんです。
 どうやって虹だんごのもちぬしを、さがしたらいいのでしょう。もちぬしがきまっている虹だんごなんてはじめてでした。もちぬしがあるのに、この虹だんごは、どうしてこんなところでうろうろしているのでしょう。
 キリコはこげ茶の虹だんごをポケットに入れると、あっちやこっちを飛びまわりました。

 さて、ミナトマチ音楽堂は、古い建物でした。昔はきれいな海の色の壁で、窓のステンドグラスはとろりとしたはちみつ色でした。音楽家たちがいっぱいやってきて、いつも楽しい音楽をかなでていました。
 ところが今はどうでしょう。
 青かった壁ははげちょろのねずみ色、窓はにごった枯葉色。中も外も潮風でぼろぼろ。屋根にも床にも穴があいていました。そして、天井はクモの巣だらけというありさまでした。もうだれも、何年も、ここで音楽会をひらく人はいません。
 持ち主はものすごく年取ったおばあさんでした。コンメリーナという名前です。がんこでへんくつ。へそまがりでいじわる。優しい心なんかひとっかけらもない人でした。
 顔を見れば、どんなにいじわるばあさんだかすぐわかります。
 げじげじまゆげ、つりあがった目、へしゃげた口。その口から飛びだすのは、きまって皮肉か悪口です。コンメリーナばあちゃんに会って、いじわるをされたことのない人はひとりもいません。ばあちゃんをいい人だと思う人もひとりもいませんでした。
 そのくせコンメリーナばあちゃんのところには、毎日いれかわりたちかわりお客さまがありました。友だちではありません。みんな、音楽堂を売ってほしくてやってくる人ばかりでした。
「おばあさん、音楽堂をわたしに売ってください。ここは場所がいいから高く売れますよ。リゾートマンションをたてるんです」
 横島不動産のダボラ氏がねこなで声をだします。でも、コンメリーナばあちゃんはびくともしません。
「ふん。おあいにくさま。あたしゃ、お金なら、売りたいほどあるんだよ」
 にこにこ世直し委員会のハリセンボン・ノーマス氏もやってきます。
「こんなお化け屋敷みたいなものが、街のまんなかにあるのはよろしくありませんなあ。海が見える公園にして、お花をうえたら、みんなよろこびますよ。わが会に寄付してくれたら、みんながあなたを見直しますよ。うそは言いません。うそついたら……」
 ハリセンボン・ノーマス氏がしまいまで言わないうちに、ばあちゃんはどなりました。
「みんなをよろこばす? どうしてこのあたしが? みんながあたしに何をしてくれたって言うの? 人をよろこばすだなんて、そんなばかげたことはまっぴらごめん!」
 なんてこわいおばあさんだろう。
 おまけになんてけちんぼ。
 みんなは口をそろえてそう言いました。
 夢みつばちたちも、音楽堂の庭に住んでいるのに、けっしておばあさんのそばには近づきません。ホウキでたたきおとされでもしたら大変です。
 ところがある日、キリコはいつものように、茶色い虹だんごのことを考えてぼんやりしていました。そして、ふらふらっと、おばあさんの部屋の中に飛びこんでしまったのです。
 キリコはあせりました。
「たいへんだ。たたきおとされちゃうわ。ふみつぶされちゃうわ。どうしよう」
 キリコはカーテンのかげにかくれて、コンメリーナばあちゃんをさがしました。
 すると、なんてまあ……
 ここにいるのはほんとうにコンメリーナばあちゃんでしょうか。
 海の色のドレスを着ています。白い髪をゆいあげ、背すじをピンとのばしていました。頬はさくら色です。
 キリコはぽかんとして、ばあちゃんにみとれました。
 げじげじまゆげもへしゃげ口も、いつもよりこわくありません。こわいどころかきりりとして見えました。
 コンメリーナばあちゃんは、優雅におじぎをすると、古いバイオリンをかかえ、ゆっくりと弓をひきました。
 きれいな音でした。
 キリコは四本の足をそろえ、二本を胸の前でしっかりと組み、頭をぐっとそらしました。
 わくわくするような調べです。
 羽がふるえました。
 潮風の匂いがわきあがり、光としめりけがとけあっているときの空を飛ぶのとおなじ気持ち。クリーム色の朝の光をいっぱいあびて、銀の羽をせわしくうごかしているときも、こんな感じでした。
 キリコはとうとうがまんできずに飛びあがり、コンメリーナばあちゃんの頭の上で、二度も三度も8の字を書きました。
 その時です。
 ぱーんと弓がはじけとびました。
 コンメリーナばあちゃんは床にたおれ、とつぜん泣きだしました。
「おお、だめだ。だめ。コンメロンさん、あたしはあなたみたいには、どうしたって弾けっこないんだ」
 コンメリーナばあちゃんはわあわあと泣いてしまうと、ハンカチでチンとはなをかみました。そして、古びたバイオリンにむかって話しだしました。

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