ミツバチの童話と絵本のコンクール

みつばちミツオ、インドへ行く

受賞きり こかぶ 様(神奈川県)

「いんど?」
 ミツオはびっくりしました。
「そうだよ。インドへ行くんだよ」
 お父さんは明るく言いました。

 ミツオはみつばち小学校の三年生。もうすぐ、お父さんのしごとでインドに行きます。はちみつ会社につとめているお父さんが、一週間前、社長によばれたのです。
「新しいはちみつを売り出したいんだ。きみ、インドに行って、なにかいいものをさがしてきてくれたまえ」
 お父さんはびっくりしました。
「イッ、インド!なぜ、インドなんですか?」
「インドはいんどころだからね」
「………」
「ハハハハハ…。では、きたいしていますよ」
 社長はひとりでわらって、お父さんのかたをポンとたたきました。

「インドって、どこにあるの?」
 ミツオに聞かれて、お父さんは世界地図をゆびさしました。
「日本より大きいね」
「そうだよ、インドはでっかいんどー」
 だれもわらいませんでした。
「どんな国?」
 ミツオは心ぱいそうです。
「そうだなあ、インドはいんどころだよ」
 また、だれもわらいませんでした。
「インドはね、しぜんがいっぱいあるの。だから、お花のみつがたくさんすえるわよ」
 お母さんは花のみつをおいしそうにすうまねをしました。ミツオは声をあげました。
「わあ、早くインドに行きたいんどー!」
 お父さんとお母さんは大わらいしました。

 いよいよ、インドでの生活がはじまりました。しかし、ここで大きな問題がおきました。ミツオの学校のことです。インドのみつばち小学校に転校させようとしたところ、いっぱいだとことわられてしまったのです。
 お父さんとお母さんはなやみました。
「スズメバチの学校ならあいているな…」
「だっ、だめよ。そんなこわいわ。だめよ、ぜったいにだめ!」
 お母さんは強くはんたいしました。
「そうだな…」
 お父さんはインドの学校ずかんでミツオが入れそうな学校をさがしました。
「おっ、ここはどうだろう?」
 お父さんが声をあげました。
「ほらほら、見てごらん。森林にいるのがすきで、からだには黄色と黒のしまもようがあるとかいてある。これはきっと、みつばちのなかまにちがいない。ここにしようか?」
 写真がないのでよくわかりませんが、楽しそうなふんいきはつたわってきます。お父さんとお母さんはここにきめました。
 次の日、お父さんとお母さんはミツオをつれて学校に行きました。
「えっと…、ここだな」
「やっぱり、でっかい国は校庭も広いんだね」
 ミツオはワクワクしてきました。野球が思い切りできそうです。力いっぱい打っても、まどガラスをわる心配はいらないでしょう。ミツオはバットをふるまねをしました。
「ホームランだ!ホームランだ!」
 おとうさんが言いました。
「こりゃ、たまひろいがたいへんだ」
 お母さんがわらっていると、後ろで太い大きな声がしました。
「校長ですが、なにかごようですかな?」
 ミツオたちがびっくりしてふりかえると、大きな、大きなけものがいました。四本足で立ち、からだには黄色と黒のしまもよう、にっこりとわらった口の中からは、きらりと光るきばが見えました。
「トッ、トラ!?ここはトラの学校なんだ…」
 お父さんは会社で見た動物ずかんを思い出しました。インドにはベンガルトラがいるとかいてありましたが、あの写真にそっくりではありませんか。
「あっ、あの、みつばちのミツオの父です…」
「いやあ、よく来てくれましたね。みんな、楽しみにまっていましたよ」
 校長先生はミツオをつまむと、ちょこんとせなかにのせました。毛はふかふかでした。お父さんとお母さんはこわくてたまりません。
「あなた、ミツオ、食べられちゃうわよ…」
 お母さんが小声で言ったので、お父さんもうなずきました。
「やっ、やめます。ここに入るのはやめます。みつばちとトラさんとではちがいすぎますので、はい…」
「なにをおっしゃいますか。だいじょうぶですよ。みつばちもトラも同じ生き物じゃないですか。みんな、おなじところはおなじですよ。それで、ちがうところはちがいますから」
 校長先生はあたりまえのことを言いました。
「さあ、ミツオくん、行きましょう。しっかりつかまっているんだよ」
「はーい!」  ミツオは校長先生のあたたかいせなかが気に入りました。こわくなんかありません。
 お父さんとお母さんがどぎまぎしているうちに、トラの校長はミツオをのせて風のように校しゃの中へとかけって行きました。
   ミツオは三年生のクラスに入りました。
 たんにんの先生はおばさんのトラでした。
「はじめまして。日本のみつばち小学校からきたミツオです。よろしくおねがいします」
 ミツオがあいさつをすると、トラの子どもたちはきょろきょろして、あたりを見回しました。そして、さわぎはじめました。
「おっ、おばけだ!」
 小さすぎて見つけられなかったのです。ミツオははねをうごかして、トラたちの目の高さまで飛び上がりました。
「ぼくはここにいるよ」
「ちっちゃーい。こいつ、ちびすけだ」
 トラの子どもたちは、ミツオをばかにしたように言いました。
「ありがとう!」
 ミツオがニコニコしながらおれいを言ったので、みんなはびっくりしました。
「ちびすけって言われたのに、ありがとうってどういうこと?」
「だって、ちびの方が小さな花の中にでももぐりこめるからすごいじゃないの。いっぱいお花のみつがとれるもの」
 トラたちはふーんと、うなずきました。
「でも、やっぱりチビはよわいよ。おれたちを見てごらんよ。ガオーッ!」
 一番前にいたトラゾーがミツオにきばをむきました。ミツオはおどろいて、いそいで先生のうしろにかくれました。
「こらっ、やめなさい」
 先生はみんなに言いました。
「みつばちさんはね、きばのかわりにはりを持っています。いざというときは、それでてきをさします。だからミツオくんも強いのよ」
「ハリ?」
 トラゾーが聞きかえしました。
「もしかして、ちゅうしゃみたいなやつ?」
 先生が大きくうなずくと、トラたちはきゅうにおとなしくなりました。
「ミッ、ミツオくん、なかよくしようね」
 トラゾーはミツオとあく手をしました。

 さあ、一時間目が始まりました。ミツオのきらいな算数です。
「トラが五頭とウマが二頭、いっしょにいました。さて、今はぜんぶで何頭いるでしょう?」
 先生がもんだいを出しました。
「ミツオくん、こたえてみましょう」
 ミツオは手と足をつかって、いっしょうけんめいにかんがえました。五たす二だから…。
「えっと…、七かな。うん、七頭です」
「ちがいます」
「えっ!?だって五たす二は七だよ」
「はい。でも、ちがいます。では、トラジくん、こたえてみましょう」
 先生はとなりの席のトラジをあてました。
「五頭です」
「はい、せいかい。よくできました」
 ミツオはびっくりしました。
「なっ、なんで?」
 トラジが言いました。
「ウマはトラが食べてしまうもの」
「それって、とんちじゃないか」
 ミツオはもんくを言いながらも、ウキウキしてきました。
「先生、こんどはぼくがもんだいを出してもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
 先生はにこにこしながらうなずきました。
「お花が十本ありました。みつばちがそのうちの三本のみつをすいました。さて、お花はぜんぶで何本になったでしょう」
「ハイ!」
「ハイ!」
 トラの子どもたちは元気に手をあげました。
「じゃあ、トラゾーくん」
 ミツオがあてると、トラゾーはむねをはって立ち上がりました。
「七本!」
 ミツオはにんまりしました。
「ちがいます」
「えっ?なんでだよ!」
「だって、みつをすわれてもお花はお花。だから、ぜんぶで十本です」
 パチパチパチ…、先生がはく手をしました。
「すばらしいわ。よくできました」
 子どもたちも手をたたいて言いました。
「ミツオくんって頭いいんだなあ」
 ミツオはうれしくなりました。そして、トラの学校の算数が大すきになりました。

 二時間目は音楽です。
 先生が言いました。
「きょうは『ガオーッ』のテストをしますよ」
「えーっ、やだなあ…」
 トラジがしょぼんとしました。
「『ガオーッ』のテスト?」
 ミツオが聞くと、トラジは言いました。
「ぼく、一番にがてなんだ…」
 今にもなきそうな顔をしています。
「なにをするの?」
「ガオーッてどなるんだよ。大きな声で強そうにさけべれば百点なんだけど…」
 みんなは前のせきから順番に「ガオーッ」と、どなっていきました。
「はい、いいですね。つぎ、トラジくん」
 トラジの顔はまっ白でした。トラジはひどく気の弱いトラなので、大声を出さないといけないこのテストはいつも0点だったのです。
「がお」
「もっと、おなかのそこから声を出しなさい」
「がおっ」
「トラはトラらしく、強く、たくましく!」
「がおお」
「そんなんでは、また0点ね」
 先生がためいきをついたそのときです。
「ガオオーッ!!!」
 トラジがけたたましい声でさけびました。
「ごっ、ごうかく!百点!」
 教室中からはく手がおこりました。
「トラジ。すごいぞ!」
 トラジはうれしくて顔がまっかになりました。そして、ミツオを見ました。ミツオはかためをつぶってブイサインをしています。トラジはおしりをさすりながら、てれくさそうにちょこんと頭を下げました。
 じつは、ミツオがトラジのおしりをはりでチクリとさしたのです。おかげで、トラジは思わず大声をあげることができたのでした。
 さあ、つぎはミツオの番です。ブイサインしている場合ではありません。
「がお、がお、がお」
「ダメダメ、まるで虫みたいな声じゃないの」
 先生はあきれたように言いました。
「だって、ぼくは虫だもん」
 ミツオは下を向いてしまいました。
「あのう、先生、虫が虫らしい声だったら、虫の場合は、いいような…」
 はずかしがりやのトラジが立ち上がったので、あたりはしんとなりました。トラゾーが言いました。
「さんせい!トラはトラらしい声を出しなさいって言ったのは先生だよ。だったら、みつばちはみつばちらしく、だよね」
 先生はしばらく考えていましたが、にっこりわらって言いました。
「そうね、ミツオくんもごうかく。百点です」
 また、みんなからはく手がおこりました。
ミツオはトラの学校が大すきになりました。

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