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ミツバチの童話と絵本のコンクール

ダンジャグケーシー ゴンボホリ

受賞さくらぎ まあや 様(秋田県)

「コノ ダンジャグケーシー!! ゴンボバシホッテット オン山サ ナゲルドォ!!」
 いたずらばっかりしていたり 悪いことばっかりしていたり わがままで泣いてばっかりいたりすると、子どもらはよく おどちゃ(お父さん)やおがちゃ(お母さん)から そう言われた。
「オメダバ(おまえなんか) 山吹オンバサ ケテヤルヤ(くれてやるからね)!」
 これを言われるのが 子どもらにとって なによりも おそろしいことだった。
 大雨が降ったあとの滝みたいに 涙と鼻水を流して ゴオンゴオンと泣いていても、 この山吹オンバの名前をきくと ピタリと泣き止んだ。
両手のこぶしをにぎりしめ 口はへの字 目はこれでもかというほど見開き 体がブルブルふるえるほど力を入れて 泣きたいのをがまんした。
 いたずらざんまいしていた子どもらも ピシッと 直立不動になった。
 これほどまでに子どもらがこわがる山吹オンバとは いったい何者なのかーー。
 オニのような角がはえているだとか キバもはえているだとか 頭の毛が金色に光っているだとか うわさをすればきりがなかった。
 熊を素手でなぐりたおして その肉を食べて 毛皮をまとってるとか、熊よりも人の子の肉の方が好きらしいとか、 グゥングゥンとうなり声を上げて歩いて来るらしいとか 二つ向こうの山のふもとの村に出たらしいとか、 ゲンさんの子どもが夜泣きしてたら 黄色い光につつまれてそのまま消えたらしいとか。
 けれども だれもかれもが 人から聞いただけの話で 本当に山吹オンバの その姿を見たという者はいなかった。
 だいたい、二つ向こうの山は その先はがけで海だから ふもとに村などありえないし、 ゲンさんなんて名前の人は どの村にもいたが子どもらはそれぞれ みんないて元気だった。

「そんなババアのどこがおそろしいって いうんだ。このバシコキ(うそつき)!」
 ガキ大将のコウ太は いばって言った。
「コウ太は オンバがこわぐねぇのけ。」
「ガブリと 食われんだで。」
「このオレに こわいもんなんかねぇよ。」
「そっだなこと言って 山吹オンバがこの村さ来たら なんとする。」
「そんなババア こうしてやる!」
 コウ太は 子どもらの頭をげんこつで ボカボカなぐった。子どもらはみな 一斉に大泣きした。
「ヘヘーンだ 泣き虫け虫 ゴンボホリ ゴンボホッテット山吹オンバが やって来るぞお!」
 それを言われた子どもらは ますますひどく泣き出した。
 ガハハハと笑いながら もう一発ずつなぐってやるかと コウ太がこぶしをふり上げたその時、 ガツンと一撃をくらい コウ太は地面にたおされてしまった。
「いってぇな ナオッペ よくもやってくれたな!!」
 と 言ってふり返ってみると コウ太を にらみつける ナオッペがいた。
 ナオッペの顔は 目がつり上がり、ギリギリと歯をならし うなり声まで上げていた。
 これで 髪が金色で 角とキバがあったらうわさどおりの山吹オンバのようだった。
「グウワァァン グオォォン!!」
 あまり大声で コウ太が泣くので まわりの子どもらはびっくりした。そして それにつられてまた泣きだした。
 そこへ 運の悪いことに 畑仕事から帰ってきたナオッペのおどちゃが通りかかった。
「コラァ ナオッペ またおまえか。」
 天がはりさけんばかりのどなり声がしたかと思うと ボカリとなぐられた。
「まったく とんでもねぇダンジャグワラシだで。」
 おどちゃは 他の子どもらをつれて 村へ帰って行った。
 手を引かれていく妹のソノはナオッペを ふり返りふり返りした。
「あんちゃあ あんちゃあ」
「ソノ あだなダンジャグワラシ!かまうな。帰って来んな ナオッペだば。」
 あんちゃが悪いんじゃない。本当はコウ太がみんなを泣かせたのに どうしてあんちゃをおこるんだ。 とソノは おどちゃに言いたいが なにせまだ小さくて上手にしゃべれない。それがまた もどかしいもんだから
「あんちゃあ あんちゃあ。」
 と泣くしかできないので、おどちゃも村の大人達も ナオッペは 妹のソノにまで ひどいことをするのか と思われてしまう。
 なしてだべ?
 子どもらをいつも泣かせるのはコウ太なのに、そのコウ太をやっつけて泣かせたところを大人達に見られてしまうのだ。 みんなが大泣きしているのに ナオッペひとり 息を荒げているもんだから ナオッペがみんな泣かせたと思われてしまう。
 悪がしこいコウ太は 本当は自分がやったと言わないし 子どもらは 自分達が泣くことに精一杯で 幼いし  やっぱり上手にしゃべることができない。
「オラが泣かしたんじゃねぇ コウ太が 子どもらをなぐったんじゃ!!」
 と 言えばいいものを ナオッペはただ だまったまま コウ太のことを ギロリとにらみつけていた。
「いいべ べつに いいべ。」
 ナオッペは くるりとみんなに背を向け 山へ向かって走った。山には木の実もたくさんあるし、川もあるし 魚もとれる。 家に帰りたくない時、いつもナオッペは この山でひとりですごした。
 山吹オンバのことは 少し気にはなったが
「べつに いいべ いたらいたで。」
 そう言って、それよりなにより はらがへって はらがへって がまんできなかった。
 木イチゴやら山ブドウやら 両手でひっつかんで わしゃわしゃと口の中へ入れまくった。けれども 食っても食っても はらいっぱいにならない。
「魚でも つかまえっかな。」
 ナオッペは川へやって来た。
 そろそろ 日が暮れてきて あたりは夕焼けに染まりだした。
 キラキラと川の中で光る魚をめがけて、ナオッペは クマのように ガブリとつかんで川岸へ投げた。 そうやって 三匹ほどつかまえると どうしてもこれを焼いて食いてぇと思った。
 いつもなら 魚をもって家に帰れば おどちゃやおがちゃの怒りは治まり 晩げのまま(晩ごはん)食うによかったが なんとしても今日は帰る気にならなかった。コウ太のことにもおどちゃのことにも腹は立った。
が それよりも 今日の山は ことのほか心地良かったのだ。

空には燃えるような夕焼けが広がり キラキラと流れる川に映り それはそれは美しかった。木々の緑が深呼吸する音が聞こえそうなほど 今日の山の空気は 澄みきっているように思えた。  夏草の香りに包まれているのは フロに入るより気持ちいい感じがした。
 しかし ナオッペの腹の虫は 満足してはいなかった。
 グルグルグル キュキュウウ…。
「魚 焼いてみるかな。」
 ナオッペは 火を起こしたことはなかったが あんまり腹が減るもんで 見様見まねでやってみた。が、カチカチと石を打っても 木の枝をこすり合わせても   火はおろか煙も立たなかった。それでもなんとしても腹ペコでたまらんもんだから 何度も何度もやってみた。
 カチカチ ゴシゴシ カチカチ ゴシゴシ
 どれくらいやってみたか さすがのナオッペも あきらめかけた。
「だめか やっぱり。」
 夕日は今にも焼け落ちそうなほど ぼってりと赤くなり あたりは薄暗くなりはじめた。
 ふいに突風が吹き ザワリと草がゆれた。
 あたりは どんどん暗くなっていった。
 どこからか パチパチとたき火する音が きこえてきた。プーンと煙のにおいもしてきた。
「ありがてぇ!火種もらってこよう。」
 ナオッペは 煙の来る方向を探した。どうやら ここより もっと川上の方らしかった。
 ナオッペは 魚を脇にかかえて走って行った。草をかき分け 枝をくぐり たき火の音をめざして行った。
 どれくらい走ったか パチパチとたき火の燃える音は ますますハッキリして 煙のにおいも濃くなってきた。
 とっぷりと日が暮れて、月あかりの中 ナオッペは目をこらしてみると 川岸に 大きな木が三本あって その根元に うずくまっている人影があった。
 たき火しているのは どうやら その人らしかった。暗くてよく見えないが 夜釣りの村人か旅の途中の人か。ナオッペは 少しずつ近づいて行った。
 ブーン ブンブン と耳の奥がかゆくなるような奇妙な音が聞こえた。何の音だと思いながら ナオッペがさらにその人に近づいて行くと、その人は夜空に向かって手を振った。
「バイバイ また明日じゃなぁ。」
 しわ枯れたような声は老婆と思われた。
「どこのばあさんだ こっだな所になしているんだべ。」
 ナオッペは近づきながら もっと目をこらし もっとよく見た。
 長くボワボワと広がった髪、きものは着ているが ただまいているだけのようで 何やら毛皮のような物を腰にまいている。
 パチパチ燃えるたき火の明りに照らされてその長くボワボワした髪が金色に光って見えた。
 ナオッペの足が ピタリと止まった。
 ザワリと 全身に緊張が走った。体中に鳥肌が立ち 髪の毛が逆立っていくように感じた。
「まさか…ウソだべ…!!」
 震えが 止まらない。
 老婆がゆっくりと振り向き ナオッペを見た。そして ゆっくりとしゃべった。
「さびぃんだば 火ぃさあだれまんず。」
 逃げなきゃと思い ナオッペは必死に走ろうとしたが どうにもこうにも足が動かなかった。
 震えが 止まらない。
 するとその老婆は ゆっくりと立ち上がり近づいて来た。
 ナオッペはますます震え 脂汗が流れた。
 そんなナオッペを まったく気に止めるようでなく、老婆は
「よいしょ、どっこらしょ」
 と 落ちていた魚を三匹 ひょいひょいっとひろい上げると 川のほとりへ行き ササッと洗った。 それから ちょうどいい木の枝をひろい ズブリ ズブリと魚をさし たき火にかざして焼いた。びっくりするほど器用だった。
 やがて ジュジューと魚が焼ける音がしてきた。
「ほれ、け(食)、はやぐこさ来てけ(食)ばいいべ。いづまでも そっだな所で 石みてぇんなってても しかたねぇべ。」
 山吹オンバにしては 角もないしキバもない。ちがうかもしれない。そう思ったとたん腹の虫が大合唱をはじめた。
 ナオッペは四つんばいになり まだ震えている足をひきずるようにして、おそるおそる老婆の方へ近づいて行った。
「ほれ けぇまんづ。」
 老婆がさしだした魚は こんがりと焼けていて いかにもうまそうだった。
 たまらず ナオッペは ガブリと魚にかぶりついた。そのうまいことうまいこと。口いっぱいにほおばったら のどにつまってしまいむせた。
「あいすかたねぇなぁ そっだにあわてて食うなやまんず。」
 ナオッペの背中をたたきながら老婆は言った。そして竹筒の水を飲ませてくれた。ナオッペは ぐびぐびのどを鳴らして それを 飲み干した。
「うめぇ なんてうめぇ水だ。こんな水 村で飲んだことねぇや。」
 老婆は ゆっくりと立ち上がり のっそりと歩いて川まで行き 竹筒に水をくんでもどってきた。そしてそれをまた ナオッペに さしだした。
 ナオッペはまた ぐびぐびと飲んだ。不思議な ほんのりとした甘味があり かすかに何かいい香りがした。
 老婆は 先ほどのと同じように こんがり焼き上がった残りの二匹の魚を ナオッペにさし出した。枝にささった魚は これまた うまそうに焼けて 香ばしいにおいがした。
 ナオッペは 一本を老婆にさし出した。
「ばあちゃんも 食ってくれ。」
 しばらくの間 老婆は だまってナオッペを見ていた。
「わしが 食っていいのけ?」
 ナオッペは 大きくうなずいて
「お礼だ。それにしても ばあちゃんは 魚焼くの上手だな。火も起こせるのは すげぇなあ。」
 老婆はナオッペから魚を受けとると 両手でかかえ じっと魚を見ていた。そして ゆっくりとひと口 魚を食べた。 ひと口ひと口大事そうに ゆっくりゆっくり魚を食べた。
 それを見たナオッペは
「このばあちゃんは山吹オンバじゃねぇな。」
 と安心し 自分もバクバクと魚を食った。
「ばあちゃんは 家さ帰らねぐていいのけ、家の人達とか 心配してねぇのけ?」
 老婆は だまったまま ゆっくりと魚を食べていた。
「ばあちゃんは 山さひとりでいて こわぐねぇのけ?クマとか 山吹オ…。」
 オンバと言いかけて ナオッペは自分の口を手でおさえた。
 正体を見やぶられ みるみるうちに その姿はひょう変し、ニョキニョキと角がはえ キバがはえ  髪の毛がボワボワッと金色に光り出すのではなかろうかと 一瞬 ナオッペは身構えた。
 が、老婆は 全く動じることなく、あいかわらず ゆっくりと魚を味わっていた。 そして これまたすっかりきれいにみごとに食べおわると、川へ行き 竹筒に水をくんでもどってきた。 コクコクと飲み、大きなため息をひとつすると、重そうに口を開いて言った。
「わしには 帰る家なんぞねぇ、心配する人なんぞ どこさも だれもいね。
 わしゃなぁ 死にぞこないだで、死に場所がほしくて山さ来たんだ。」
「なして ばあちゃんが死ぬんだ?」
「病気だでぇしかなねぇべ。わしだって 生まれた時から老婆でねぇや。子どもん時もあったし、田さも畑さも山さも働きに行ったもんだ。 ところが 胸ばやられてしまって、他人さ移せば だめだはんで 家さとじこもったんだともよ、やっぱし そういう病気のことが分かってしまえば だれも近よって来ねぐなってしまって。 んだども それだば なんともしょねぇことだはんでぇーー。」
「ばあちゃんは そんなに元気だのに 病気なんてウソみたいだね。」
 すると老婆は ガッハッハと大声で笑った。
「分かるか この木はリンゴの木じゃ。あの川の水 うまかったべ。リンゴ食って川の水飲んでどういう訳か まだ死なねぇ。」
「病気 直ったんじゃねぇべか。直ったのなら 家さ帰ったらいいべ。」
「もういいんじゃ わしゃ、こさいる(ここにいる)。こさいて 死神様のお迎えを待ってるだで。友達もおるんで もうちっと辛抱するったな。」
「友達?友達がおるのかここに?」
「明日の朝 会えるべさ。今夜は あと休めや。」

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