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ミツバチの童話と絵本のコンクール

きんいろのアメ、 ぎんいろのメガネ

受賞五嶋 千夏 様(山口県)

「ふあ……」
 コトコは、そっとあくびをかみころした。目のはしっこに、ぷくりとなみだがたまる。
 窓の外は、いやになるほどの上天気だ。
 今は五時間目、国語の授業中。ねむくてだるくて、ちっとも頭がはたらかない。
 こんなことなら、ママにつきあって夜中までテレビを見るんじゃなかったなあ。
 気をぬくとまぶたが落っこちてきそうな目で、コトコは教科書をながめた。
 開いたページには、下半分をうめつくして、野原のさし絵が描かれていた。緑の山々にかこまれた谷間に、色とりどりのビーズをまきちらしたような花のじゅうたん。ところどころにまう、白いちょうちょ。
 何てきれいな場所だろう。コトコはうっとりと、半ばゆめみごこちで野原を見つめた。
 いいなあ。こんなところにねっころがってひるねしたら、どんなに気持ちいいだろう。
「和田さん、和田コトコさん」
 名前をよばれて、コトコははっとした。
 しまった! 授業中だったっけ。
 先生はきびしい声で言った。
「和田さん。ぼーっとせずに、まじめに授業を聞くようにね」
「はい……」

「ちょっと、 コトコ!」
 帰りのあいさつを終えて、教室を出ようとしたコトコは、友だちによびとめられた。
「忘れてるの? 今日コトコ、日直だよ」
「え?」
 コトコは黒板の右はしを見た。もう消えかかっている自分の名前が、もう一人の日直の横に書いてある。
「しまった、すっかり忘れてた……」
「トンボ、一人で全部やってたよ。あそこで日直ノートも書いてる」
「うそ、何で言ってくんないの!」
 コトコはランドセルをおくと、急いでノートを書いている男の子のそばへ行った。
 えーっと、トンボじゃなくって……。
「あの、山田くん」
 山田くんはコトコを見ると、メガネを指で押し上げ、またノートに向かってしまった。
 このぎんぶちメガネが「トンボ」のあだ名のゆらいだ。面と向かっては言えないけれど。彼には、あだ名なんかで軽くよべるような、親しみやすさがないのだ。
 頭がよくて、すかしてて、ぶっきらぼう。どこからとっても苦手なタイプを前にして、コトコはきまりわるそうに頭をかいた。
「ごめんね。あたし日直だって忘れてて。言ってくれればよかったのに」
 トンボは、すごい速さでえんぴつを走らせながら、そっけなく言った。
「和田さん、今日ずっとぼんやりしてたから」
 キカイみたいなしゃべり方だ。
「あ、じゃあノート、先生に持って行くよ」
 トンボはだまってコトコを見上げると、書きおえたノートをつき出した。
「……ほんとに、ごめんね。じゃ」
 気まずい空気がつらくて、コトコが回れ右をしようとしたとき。
「和田さん、手出して」
 コトコはぎょっとした。トンボが話しかけてきた! めずらしいこともあるもんだ。
 コトコは、おそるおそる手のひらをさし出した。その手のひらに、トンボの手からころんと何かがこぼれおちた。
 それはセロファンにつつまれた、金色のアメだった。
「あげる。 少しはつかれがとれるよ」
 にこりともせずにそれだけ言うと、トンボはさっさと教室を出て行った。
 一人とりのこされて、コトコは手のひらのアメをころがした。日なたの光をあつめて固めたみたいな、とろんとした色。形がふぞろいなのは、手作りなんだろうか。
 おなかが、ぐうっとなった。学校でおかしを食べちゃ、いけないんだけど、でも……。
「いいや、食べちゃえ!」
 コトコはがまんできずに、セロファンを開けた。
「あっ!」
 口に入れたとたん、思わずさけんだ。
「何これ、すっごくおいしーい!」
 口いっぱいに広がる、やさしいハチミツの味。それだけの味だ。なのに、コンビニやスーパーで売っている色とりどりのアメより、だんぜんおいしい。
「こんなアメ、初めてだ。なんでこんなにおいしいんだろ」
 コトコはうっとりと味わいながら、何だか体に力がよみがえったような気がした。

 ドアのかぎが開く音がして、コトコは玄関にとんで行った。
「ママ、おかえり!」
「ただいま。はー、つかれたぁ。 先におふろ!」
 くつをぬいだママは、さっさとおふろばへ行ってしまった。
 ママ、いつもよりずっとつかれてるみたい。
「あ、そうだ!」
 コトコはおふろから上がってきたママに、もらったアメをあげてみることにした。
「ママ、ママ! これたべて」
「なあに? アメ?」
 ママはつまらなそうにセロファンをあけると、ぽいっと口にほうりこんだ。
 しばらくして、ぱっとママの目がひらいた。
「なにこれ、すっごくおいしーい!」
 じぶんとそっくり同じおどろきかたで、コトコは思わずふきだしてしまった。
「コトコ、このアメすっごくおいしいよ。手作りでしょ。だれにもらったの?」
「同じクラスの男の子」
「へーえ。うふふ、何だかこのアメ、つかれがとれるみたい。明日お礼言っといて」
 ママは洗たく物をたたみながら、鼻歌まで歌いはじめた。
 すごい! このアメ、元気になる力がある。
 もっと欲しいな。もっとママに食べさせてあげたい。あたしにも作れないかな。
 作り方に、何かひみつがあるのかな。
 明日トンボに聞いてみよう。
 コトコは、今日は早めにベッドに入った。

 朝、 教室に入ろうとするトンボを、コトコはよびとめた。
「ト……山田くん、おはよう!」
 トンボはあいかわらずむっつりしていたが、コトコはおかまいなしにしゃべった。
「昨日は、ありがと。あのアメおいしかった! 何か元気になるよね。ママにもあげたら、よろこんでた。
 それでね、お願いなんだけど。あたしに、あのアメの作り方、教えてくれないかな」
 トンボは、ぎんぶちメガネを指で押し上げると、こうふん気味のコトコに、そっけなく言った。
「だめ」
「えー、どうして? ひみつなの?」
「ひみつじゃないけど、だめなものはだめ」
 全く相手にせず、教室に入ってしまった。
「ちぇ、けちんぼ。がりがりトンボ!」
 コトコはトンボに聞こえないように、ぼそっと言いすてた。やっぱり、やなやつ!
 放課後。
 コトコは、電柱のかげにかくれていた。目の先にいるのは、トンボだ。
 コトコはあきらめていなかった。トンボのあとを、こっそりつけていくことにしたのだ。
 こんなとき、ママの帰りがおそいのは都合がいい。時間はたっぷりあるんだから。
 トンボは、よそ見もせずにもくもくと歩いていく。足が早いので、かくれながらついていくのは大変だ。
 やがて町なみがとぎれ、車も人もまばらになり、道路ぞいは田んぼと畑ばかりになった。
 数少なくなった電柱は、トンボとコトコの間をはなしていく。周りはとうの昔に、 見知らぬ景色になっていた。
「どこまで行くんだろ……」
 さすがのコトコも、心配になってきた。
 まだ空は明るい。でも帰りのことを考えたら、ちょっとまずい時間になりそうだ。
 ママ、おこるとすっごいこわいんだもん。
「なんでこんなとこまで来なきゃいけないのよう、トンボのばか!」
 勝手につけてきたくせに、コトコはトンボにはらを立てた。
 そのとき、前を行くトンボがふっとすがたを消した。
「あれれれ?」
 コトコはあわてて走りだした。
 トンボの消えたらしいあたりに来ると、横の竹やぶの間に、小さな上り坂があった。他に道らしいものはないので、たぶんこれを上って行ったんだろう。
 コトコは一歩、坂にふみこんだ。何だかひんやりとした風が、ほほをかすめた。
 竹やぶがトンネルのようにかぶさり、妙にうすぐらい。先の見えないぶきみな坂に、コトコの足は進むことをいやがった。
「どうしよう……」
 進むべきか、帰るべきか。
「こんにちは」
「ひゃっ!」
 とつぜん、後ろからかたをたたかれて、コトコは変なさけび声をあげてとびあがった。 見ると、 むぎわらぼうしをかぶって、花がらのかっぽう着を着たおばあちゃんが、にこにこ笑いながら立っていた。
「この上にご用があるの? この先には、おばあちゃんのうちしかないんだけど……もしかして、ユウちゃんのお友だち?」
 コトコはきょとんとした。
「ユウちゃん?」
「山田ユウタ。おばあちゃんの孫なのよ」
「あ、ト……じゃない、山田くんの!」
 コトコが言ったとたん、おばあちゃんの顔がぱあっと明るくなった。
「やっぱりそうなの! まあ、うれしいねえ。ユウちゃんのお友だちが来てくれるなんて、初めてだよ。さあ、おいでおいで。ユウちゃんは先に行ってるのかい?」
 まるで早口言葉みたいにしゃべりながら、おばあちゃんはコトコの手を引っぱって坂を上っていった。口をはさむひまもない。
「さ、ついたよ」
 いっきに上りきって、コトコはその場にすわりこんでしまった。
「つ……つかれた……」
「あらまあ、こりゃごめんね。きつかったかい? ちょっと待っといで。冷たいものを持ってきてあげよう」
「はひ……」
 おばあちゃんの走っていく方向に、大きくて古めかしい、昔話にでも出てきそうな家が建っていた。竹がきにかこまれた広い庭と、大きな倉庫。他に家が見あたらなくて、コトコは立ちあがり、背のびして竹がきの向こうをのぞいた。
「うわああああ!」
 コトコの目にとびこんできたのは、見わたすかぎりの花、花、花。
 そう、まるで教科書で見たのとそっくりな、ゆめのような野原だったのだ。
 さっきまでのつかれも忘れて、コトコは野原を見わたした。赤、ピンク、黄色、 白。あ、あそこにはむらさき。何の花だろう。
 ふと見ると、向こうから大人と子どもが歩いて来る。二人とも、むぎわらぼうしにぐるりとアミをまいていて、顔が見えない。
 かなり近づいてきて、子どもの方が「ええっ?」とさけんで、コトコの方へ走ってきた。
「何でここにいるの!」
 子どもはぼうしをとった。トンボだった。
「ついてきたの?」
「うん……」
「ぜんぜん気がつかなかった」
「電柱とかに、かくれながら……」
 トンボはまじまじとコトコの顔を見つめると、大声で笑い出した。
「……和田さんって、ヘン……!」
 初めて見るトンボの笑顔に、コトコもつられて笑い出してしまった。

「ユウちゃんがさそったんだとばかり思ってたよ。あらまあ、それじゃ……」
「ごめんなさい!」
 えんがわにすわって、首をかしげるおばあちゃんに、コトコはいきおいよく頭を下げ、 事情を説明した。
「まあ、そうだったの。ユウちゃん!」
 おばあちゃんのひとこえに、トンボはびくっとした。あのすかしたトンボが、耳まで真っ赤にして、ぽつりと言った。
「ユウちゃんてよばないでよ……」
 すると、白い歯をむき出しておじいちゃんがわははは、とひざをたたいた。
「まあいいじゃないか、ばあさん。えーと、コトコちゃんだったかな。こんな遠くまでよく来てくれたね。さあさあ、これお飲み。とれたてのハチミツとレモンで作ったジュースだよ。こっちは、ばあさんの焼いたはちみつクッキー。うまいぞ」
 おじいちゃんとおばあちゃんは、ここでミツバチを飼ってくらしているそうだ。
 ジュースはよく冷えていて、のどのかわいていたコトコはストローでいっきに飲みほした。それを見ておばあちゃんもふき出した。
「アメの作り方、教えてあげたいけどね。今日は時間が足りなくてむりだよ。今度、日曜日にでもおいでよ」
 コトコはすぐさま返事した。
「来ます来ます! ぜったい来ます!」
「せっかくだから、ユウちゃん。ミツバチを見せてあげたら?」
「……はーい……」
 おばあちゃんには逆らえないのか、トンボはくちびるをとがらせてしぶしぶ答えた。

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